11月5日の米大統領選の争点の一つに気候変動対策があります。世界第2位の温室効果ガス排出国であり、国際交渉でも大きな影響力を持つ米国ですが、共和党候補のトランプ前大統領は国際ルール「パリ協定」からの脱退を口にしています。大統領選の結果が米国や世界の気候変動対策にどう波及するのか、「グリーン戦争―気候変動の国際政治」の著者である電力中央研究所の上野貴弘・上席研究員に聞きました。
- 「掘って掘って掘りまくれ」に共鳴 地方や農村で根強いトランプ支持
「簡単に戻させない」
――米国は2017年のトランプ前政権時にパリ協定脱退を通告し、21年のバイデン政権発足時に復帰しています。今回との違いは。
トランプ氏がどこまでやるかがポイントだと思います。前回のトランプ政権時は、パリ協定が16年11月に発効した直後で3年間は脱退を通告できない決まりがあり、正式に脱退したのは20年でした。
今回は新政権発足時の25年1月に通告すれば、1年後の26年1月には脱退できます。また、明言はしていませんが、パリ協定だけでなく、協定加入の前提条件となる国連気候変動枠組み条約からの脱退も考えられます。
――なぜそこまでやるのでしょうか。
条約からも抜けてしまえば、その後に民主党政権になって条約に復帰しようとしても上院の承認が必要になる可能性があり、すぐに戻れるかわかりません。「簡単には戻させない」という狙いでしょう。
パリ協定や条約から抜けることで途上国への資金支援の義務も無くなります。また、国による温室効果ガスの排出量の報告義務も無くなり、企業の国に対する報告義務も緩和されるでしょう。
――米国がパリ協定を抜けることで、他国も連鎖的に脱退するおそれはないでしょうか。
追随は起こりにくいと思います。なぜなら、パリ協定は当面の間は世界全体の温暖化対策の中心的な枠組みという前提があるからです。
パリ協定は、各国が自分たちの決めた目標を提出するという弱い義務の枠組みです。中国もこの仕組みだから参加できています。実効性に課題はあるものの、代わりのものをつくることも現実的ではありません。将来、民主党政権になって米国が復帰した際に、また脱退した国も復帰に追随するのでは格好がつかないでしょう。
大局的にみて追随は合理的ではなく、脱退の連鎖は高い確率で起こらないとみています。
――大統領選直後にはアゼルバイジャンで国連気候変動会議(COP29)があります。影響は。
トランプ氏の勝利が決まった…