精巣がんを患い、闘病の記録をインスタグラムなどのSNSで発信する鈴木啓太さん=東京都千代田区、田辺拓也撮影

 「腹筋をぱっかーんと切って下腹部のリンパ節を全部取ります。ぶっちゃけやるしかないので」

 浅めのニット帽をかぶった若い男性が、画面越しに語りかける。その表情に悲壮感は見られない。

 10万人に1人から2人が発症するといわれる精巣がん。その中でもさらに希少な症例で闘病する東京都の鈴木啓太さん(31)は、「ワンボール鈴木」と名乗り、インスタグラムなどのSNSで闘病記を発信している。

 「ワンボール」の由来は、手術で切除して一つだけ残った睾丸(こうがん)から。音の響きを意識し、記憶に残るよう真剣に考えたという。

 闘病記を発信し続ける理由は、その病気の希少性にある。

 精巣がん患者の約7~9割は、適切な手術と治療で完治すると言われている。しかし、鈴木さんのがんは、術後も転移を繰り返す難治性だった。世界でも症例は少ないと医師は言う。

 「そんな病気ならどうやって乗り切ったか、誰もが見られるように記録に残しておこう」。完治した将来を見据え、投稿を続けている。

写真・図版
愛知県で生まれ育った。大学卒業後に入社した専門商社も名古屋の企業を選んだ=東京都千代田区、田辺拓也撮影

 初めて自身の体に異変を感じたのは2023年4月だった。睾丸と陰茎の根元付近に1センチもない小さなしこりがあることに気づいた。痛みはなかった。

 インターネットで症状を検索すると、「しこりは正常な副睾丸」との情報が目に入った。安堵(あんど)し、「問題ないだろう」と気にとめなかった。

 当時はAI(人工知能)を取り扱うIT企業へ転職し2年が過ぎたころだった。取引先や友人との飲み会は週5回以上。週末は趣味のボルダリングで汗を流し、忙しくも充実した日々を過ごしていた。

医師、間髪入れず「これ、取らないとだね」

 それから2カ月後、徐々に睾…

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