Smiley face
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中間市に開業していたクリニックでは、セラピー犬の心くんとともに日々、患者と向き合っていた=本人提供
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 2023年、帚木(ははきぎ)蓬生(ほうせい)さん(78)は、05年から続けた福岡県中間市のメンタルクリニックを閉じて、専業作家になった。

 40年以上にわたり精神科医と小説家の二本立てでやってきた。臨床に携わる傍ら、年に1冊ほどのペースで、医療の現場を舞台にしたサスペンスや時代小説などの作品を書き続けてきた。

 76歳になったこの年、クリニック開業後まもない頃から患者に愛されてきたセラピー犬の「心(しん)くん」(オス)は、目が見えなくなり、脚力も衰え、自力で立てなくなっていた。

 「俺もやめようかな」。

医学部での講義中の気づき、デビュー作に

 思い返せば、大学病院、閉鎖病棟の勤務、外来など一通りの経験をした。研究にも打ち込み、フランス語でも論文を書いた。医師として「やるべきことはやった」という手応えがあった。

 一方で、小説家としては「書きたいものが、もういっぱいありますよ」。77歳になったらペースを上げようと考えていた。

 現在は3作品の執筆を同時進…

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