(16日、第107回全国高校野球選手権埼玉大会3回戦 大宮東5-2川口市立)
ベンチから駆け出し、打席に残されたバットを素早く片付けることが大宮東の背番号19、温泉川(ゆのかわ)大輔選手(3年)の仕事だ。バットについた土を素手でぬぐい、次打者に渡し続けている。
中学時代にはシニアリーグの全国大会に2度出場した有望選手だった。高校に入ったら即主力と期待されていた。しかし、入学後は腰痛との闘いが続いた。
慢性的な腰の痛みに苦しみ続けていたが、腰椎(ようつい)の疲労骨折である「腰椎分離症」の激痛に襲われたのは、昨秋。前日から歩くのがつらかったという。翌朝目覚めると、ベッドから起き上がれなかった。半年間、プレーはもちろん練習すらできず、今春まで後輩の指導係を務めていた。
体育の授業も見学が続いた自分を、仲間と先生が励まし続けてくれた。
体育教諭でもある鈴木貫太郎監督から、授業中にそっと「焦っても仕方ない。自分のやれることをやれ」とかけられた言葉が心の支えになっているという。
ようやく、ジョギング程度ならできるようになった。しかし、チームの戦力になれる体ではない。最後の夏の背番号は諦めていた。しかし――。
鈴木監督は今年初めて、背番号19と20を選手全員の投票で決めた。温泉川選手に19が与えられた。
自分が選ばれた時、もちろんうれしかった。だが、それと同時に「選手全員の思いが託された背番号。自分の役割を果たさなくては」と心が引き締まったという。
鈴木監督は、「頑張り続けてきた温泉川を、どうしても1度は起用したい」と語る。守備につけない彼に出場機会があるとしたら、敗色が濃厚となった場面での代打だろう。でも、それはチームの負けを意味している。だから、温泉川選手本人は自分が出場することなど考えていない。
「選手が気持ち良く打席に入れるように。それだけを考えて、ベンチに入れなかったみんなと一緒に戦います」。水筒を渡し、バットを素手でぬぐい、仲間を打席に送り続ける。