男性被告(55)は昨年11月13日の夜、大阪府内にある実家の理容室の2階で、眠る85歳の母親の首を充電コードやタオルで絞め上げた。
1階にあった携帯電話の充電コードを使ったのは、首に手をかけることができなかったから。背中側にまわったのは顔を見られなかったからだ。
しばらく絞めると、うめき声が途絶えた。手を緩める。いびきが聞こえた。もう1度、コードを強く引っ張った。繰り返した後、最後はタオルで絞め上げた。
布団を母にかけて1階に下り、思った。次は自分が死ぬ番だ、と。
しかし、被告は2日後の早朝、地元の警察署に自首した。自殺をしようとしたが、怖くて死ねなかった。
就寝中の母親を窒息死させたとして、殺人罪で起訴。裁判所は今月26日の判決で「被害者が殺害されなければならない理由はなく、犯行の動機と経緯は身勝手だ」と断じ、懲役9年の実刑を言い渡した。
なぜ心中を考えたのか。被告は公判で、困窮した生活ではなかったのに、金銭面の不安に陥ったと語った。決意したのは2階の天井にあいている穴を見た時だという。
「本当に空を見たとき、無理だと思った。死んだ方が楽だという思いがどんどん膨らんだ」
不可解な動機に至るまでに、何があったのか。公判の被告人質問などから、その経緯をたどる。
ダブルワーク、家計月収50万円
被告は専門学校を出て、両親が実家で開いた理容室で働いてきた。地域に愛された「古い田舎の理容室」だ。
結婚して2人の子どもが生まれた。ローンを組んでマンションの部屋も買った。
10年ほど前から理容室の勤…