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「プリモJR」は、ファインダーを上からのぞき込むようにして撮影する=東京都新宿区四谷4丁目、加藤丈朗撮影

本業は1台数千万円 副業は1本千数百円

 世界自然遺産の知床半島で知られる北海道斜里町に、商品名「レラパン」という写真フィルムの製造・販売を手がける男性がいる。毛利剛さん(64)。農機具の製造・販売や貿易会社の経営が本業だが、ある種のカメラを使う人たちにとっては救世主のような人だ。

 毛利さんの会社で扱う主力商品は大型の農機具。特にじゃがいもの収穫に使われる機械は、農家の要望を聞きながら、畑の土質にあわせて改良を加え、使いやすさで評価を受けている。最近の稼ぎ頭は、ラジコン操縦で河川敷などの草刈りをするチェコ製の大型機械だ。数百万から千万円単位の大型機械に比べ、レラパンは1本千数百円で、利益もわずかだ。

 レラパンは「ベスト判」や「127」と呼ばれる、画面サイズが46ミリ幅の、一度は消滅しかけた規格のフィルム。一般のフィルムは36ミリ幅なので、一回り大きい。ロール状のフィルム原板をスプールという中軸に巻き付け、遮光紙という黒紙で感光しないように覆う。真っ暗闇の暗室で、自作の機械を使い、造れるのは1日に数十本程度。手間がかかるうえ、大きな利益も出ないが、毛利さんは「大切な事業」だと言い切る。

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即売会で並べられた「レラパン」フィルム=東京都新宿区四谷4丁目、加藤丈朗撮影

 家族写真の撮影から、写真を趣味にするようになった毛利さんがベスト判カメラに出会ったのは2009年。たまたま立ち寄った中古カメラ屋で、プリモJRという今は医療用や測量用の精密機器で知られるトプコンが製造した、可愛らしいたたずまいのカメラを見つけた。レンズや金属の造形など、精密機械としても魅力的だった。思わず購入したが、すでに日本ではフィルムが生産されておらず、輸入品も見つけられなかった。

 ネットで調べると、クロアチアのメーカーが「エフケ」というブランドで造り続けていることが分かった。クロアチア系イタリア人の知人を介して、メーカーに問い合わせ、100本購入した。

 自分で使うのは10本か20本あればいい。残りをネットオークションに出したところ、あっという間に完売。入手困難なフィルムを譲ってくれた感謝のメッセージに加え、別のフィルムを仕入れて欲しいというリクエストが次々と届いた。それに応じる形で、2回目は500本を輸入。完売できるか不安だったが、短期間で売り切れた。

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「かわうそ商店」の毛利剛さん=東京都新宿区四谷4丁目、加藤丈朗撮影

 10年、「趣味ではなく、仕事にして愛好家の思いにこたえよう」と、オンラインショップ「かわうそ商店」をオープン。待ち望んでいた愛好家が多く、サイトを構築してくれた専門家が驚くほどの来訪者数だった。

 ところが12年に、機械の故…

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