小説家の横山秀夫さん

 「オレは聞いてない」「それはウチの仕事じゃない」――。組織にはびこる縄張り意識にうんざりすることはありませんか? ですが、警察小説などで組織と個人の相克を描いてきた横山秀夫さんは「不毛な争いだとは思わない」と話します。縄張り争いにどんな意味があるのか、話を聞きました。

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団体戦になりエスカレート

 日本社会で起こる縄張り争いは、もれなく組織のヒエラルキーが介在している気がします。「こっちが格上だ」と信じて疑わない人たちが、見下している相手に侵入された時、縄張り意識が牙をむく。ヒエラルキーが下の人たちも、強い自負心を抱いている持ち場に上の者が土足で踏み込んでくればいきり立つ。双方が血相を変えて争うさまは、はたから見れば「見苦しい」とか「滑稽だ」と映るのでしょうが、私はあながち不毛な争いだとは思いません。

 縄張り争いはエスカレートしますよね。相手を排除する負のエネルギーは、理性的な正のエネルギーを圧倒してしまうし、共通の敵を得て帰属意識が強く刺激され味方が結束する。結果、団体戦となり騒ぎが大きくなる。エゴがぶつかり合うさまは醜悪ですらあるけれど、しかしそれが本性むき出しの争いだけに、せめぎ合いのさなか嫌でも相手の大切にしているもの、譲れないものが見えてくる。これまで知ろうともしなかった他のセクトの本音を知ることになる。相互理解の花は咲かずとも、投げつけ合った無数の言葉の屍(しかばね)の上にぺんぺん草ぐらいは生えてくるのではないでしょうか。

警察小説で書きたいもの

 そもそも縄張り意識の源は個…

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