Smiley face
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2001年には第26回菊田一夫演劇賞を受賞。「杉村先生に怒られていた頃は、私のお芝居って本当にへたくそだったのよ」と笑いながら振り返る
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 「おしん」(1983~84年)を撮影している時、初めてベンツを買ったの。

 《下積み時代を経て、このころから暮らしぶりは、豊かになっていた》

 車を買う時も西田(敏行)君に相談した。「おしんでボロボロの衣装着てるのに、ベンツに乗ってるのって面白くない?」って。「そりゃいい。格好いいわ」って言ってくれた。モスグリーンの色のベンツよ。

 渋谷のNHKでの撮影の合間に、近くに住んでた大原麗子ちゃんが「ちょっと体調が悪くて」と話していたのが気になって。「おしん」の衣装を着たまま、そのベンツに乗って様子を見に行ったことも。

 着いたら先客がいてね。細くて白いセーターを着ている人。「麗子、ありがたいね。心配して衣装のまま飛んできてくれる人なんて、芸能界にはまずいないよ」って言ったのね。よく見たら、美空ひばりさんだった。

俳優・泉ピン子さんが半生を振り返る連載「泉ピン子 背筋をピンと伸ばして」。全4回の3回目です(2024年3~4月に「語る 人生の贈りもの」として掲載した記事を加筆・再構成して配信しました)。

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 《思わぬところで大物歌手と知り合い、交流が始まった》

 ひばりさんに気に入られてね。ベンツに積んでいた車用の電話に「あたし!」ってかかってくるようになった。ゲイバーに連れられたり、「(ひばりさんの養子の加藤)和也の彼女がどんな子か知りたいんだけど、嫌われるのが怖いから一緒に来て」って付いて行ったり……。元気な頃はよく一緒に飲んで、着物も頂いて、失礼な物言いも許してくれた。「そろそろ帰る。私、明日コンサートなの」と言っても、「大丈夫。声は出るよ。美空ひばりなんだから。帰んないで」なんて返してね。

 体調が徐々に悪くなるのを見るのはつらかった。人前ではシャキッとしていても、誰も見ていないと階段を上るにもゼイゼイとしんどそうで。

 密葬の日、芸術座での「おん…

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