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 火災で酒蔵を焼失した蔵元がこの春、同業者の施設を借りて、被災後初めてとなる醸造に取り組みだした。「もらった恩を返したい」。日本酒に感謝の思いを込め、再建への一歩を踏み出した。

 「深山桜(みやまざくら)」「和和和(わわわ)」の銘柄を製造・販売してきた古屋酒造店(長野県佐久市)は明治24(1891)年創業。火災が起きたのは、仕込みや出荷で忙しくしていた2024年12月23日の未明だった。

 同店代表の荻原深(ふかし)さん(46)は自宅で息子から「煙が見えた」と知らされ、急いで同じ敷地内の火元に向かった。だが「一気に火が広がって、ただぼうぜんと燃えるのを眺めることしかできなかった」。

 鎮火まで16時間かかった。一升瓶換算で年間2万本相当を製造してきた酒蔵が焼失。酒造りに必要な設備の全てを失った。「ゼロから改めてつくるなんて考えられなかった」。廃業もちらついた。

写真・図版
2024年12月に起きた火災の跡。古屋酒造店の酒蔵が焼失した=2025年4月3日、長野県佐久市

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