少しでもおいしい給食をと、57年にわたって東京都足立区の小学校で栄養士を続けてきた前田啓子さん(77)が3月、退職した。「食べることは生きること」。子どもたちへの思いを込めた、たくさんのレシピを残し、学校を去った。
3月19日昼、区立平野小。後期最後の給食日。前田さんにとっては栄養士として働く最後の日だったが、今まで通り児童の様子を見て回った。給食に対する反応と、健康状態を確認するためだ。「子どもが食べる姿を『親』が見守るのと同じです」。時には子どもたちに話しかけ、給食のリクエストも聞いてきた。
小学校給食界のパイオニア的な存在だ。
戦後、6人きょうだいの末っ子として、疎開先の埼玉県川越市に生まれた。生活は苦しかったが、料理好きな母は、おやつも手作りするほど食事を大切にした。中学1年で父が他界し、母が遠方に仕事に出るようになると、前田さんが兄姉の食事を作るようになった。
「将来のために資格を取ったほうがいい」と母から助言され、短大で栄養学を学んだ。足立区に採用され、1968年に区立千寿第四小(現・千寿常東小)に栄養士として赴任した。
給食の手作り化に奔走 「わくわくする給食」目指す
当時は脱脂粉乳とコッペパン…