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バットスイングの確認をする大宮選手=2025年8月6日午後3時11分、奈良県生駒市の近大野球部グラウンド、荒川公治撮影

 聖光学院の選手の多くが推すチームのムードメーカーが背番号16の大宮行雲(いくも)外野手(3年)だ。チーム一の長打力を誇る右打者は、ケガと闘いながら選手生活を送ってきた。甲子園では代打の切り札として出番を待つ。

 「あの打撃を見せられると使いたくなる」。甲子園入りした2日後の練習で、打撃を見た斎藤智也監督はうなった。内角直球をうまく腕をたたみコンパクトにスイングすると、打球は左中間を抜けていった。「ゴロを打つように言われていたので。でもフライになっちゃいました」と大宮選手。

 横山博英部長から「今までで一番いいバッティングだな」と声をかけられると。「すみません」。「なんで褒めているのに謝るんだ」と横山部長も苦笑い。

 ベンチ入り20人のうち最多の5人が「おもしろいから」を理由に、チームの「一押し」選手に大宮選手を挙げた。「ただ一人でさわいでいるだけではなく、会話をしながら楽しませてくれる」とは竹内啓汰主将(3年)の評。

 福島大会はおもに一塁コーチを担った。「落ち込んでしまうチームなので、明るくなるように」努めている。笑顔あふれる大宮選手だが、春に一度、野球をやめようと思い悩んだことがあった。

 今春の選抜大会は背番号15ながら、4番・三塁手としてレギュラー出場し、甲子園の土を踏んだ。だが初戦の常葉大菊川(静岡)戦の第2打席。左投手のチェンジアップを振った際に左肩を脱臼した。

 初めて脱臼したのは1年生の7月。昨秋の明治神宮大会前にも同じ部位をケガして大会を欠場した。

 選抜大会の後、医師から手術を勧められた。だが手術をすれば夏の大会に間に合わないかもしれない。手術をしなければ、野球ができなくなるかもしれない――。悩み、野球をやめることも考えたが、手術をせず夏の甲子園をめざそうと決めた。

 外角に流れる変化球を打ちに行くときにフォームが崩れ、左肩を脱臼することが多かった。福島大会の期間などを通じてチューブを使ったウェートトレーニングを「1日3時間」のペースで続けた。特に左肩のインナーマッスル(深部の筋肉)を強化した。

 「日本一を目指すチームの力になりたいし、鼓舞していきたい」。名前の由来は、成り行きにまかせるという意味の禅の言葉「行雲流水(こううんりゅうすい)」から。この夏、自然体で「一振り」にかける。

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