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 解剖学者の養老孟司さんは2024年5月、肺がんと診断され、今年4月には再発がわかりました。東京大医学部の後輩で教え子の、がん研有明病院の腫瘍(しゅよう)内科医・高野利実さんは、がん患者と向き合う医師として、養老さんの考え方に大きな影響を受けてきたといいます。がん、老い、死について、考えていることを語り合っていただきました。

 ――がんの当事者になって、ご自身のなかで何か変わったことはありますか?

 養老 あまりないです。ただ、こんなに抽象的な病気はないと思います。いま、具体的な苦痛がないのです。僕は「自分の体の声を聴く」という考え方で医療にかかわってきました。最初にがんが見つかったときは、肩や背中の痛みがあって病院にかかったのですが、再発については検査で見つかったから治療しています。自覚症状がなくて治療を受けるのは変な感じです。自分の体の声を聴こうにも、何も言ってくれない。とても頼りない気持ちになります。

【動画】がんと老いと死について語る養老孟司さん=恵原弘太郎撮影

 でも、病気は自然現象です。この年になって、がんの二つや三つあって当然です。「やっぱり、あった」。それだけのことです。日本人の半分は、一生のうちにがんになると言われていますから。

 高野 がんには絶望の淵に落とされるというような、ほかの病気とは違う「過剰なイメージ」があり、それに苦しめられている患者さんも多くいるように感じます。

 養老 がんも自分の細胞です。もうちょっと折り合ってもいいんじゃないかな、と思います。

 ただ、そういうイメージは、仕方ないところもあるのではないでしょうか。エントロピー(乱雑さ)みたいなもの、という気がします。健康という概念をつくっていくと、裏側に病気やがんが出てくる。社会のどこかに、マイナスのイメージのかたまりのような存在が必要なのかもしれません。

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