入学式に臨んだ中橋奈智さん(中央)=2024年4月4日午前10時3分、石川県かほく市学園台、安田琢典撮影
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 石川県立看護大(かほく市)で4日、入学式があり、学部生85人と大学院生16人が学びの門をくぐった。能登半島出身で唯一、大学院に進む学生は能登半島地震で芽生えた思いを胸に臨んだ。

 七尾市の中橋奈智さん(22)。幼い頃から赤ちゃんと接する機会が多かった。弟と11人のいとこのうち、6人が能登半島生まれという。

 「毎年のように赤ちゃんが生まれ、祖母の家でだっこするのが日常だった。かわいくて、触れるのが楽しかった」。小学生の時、新生児の誕生に立ち合う助産師になりたいと思うようになった。

 助産師の資格を取るには、大学院博士前期課程で2年間、専門的な知識を学ぶなどする必要がある。

 だが、学部の卒業を控えた1月、地震で状況が一変した。

 自宅の倒壊は免れたが、断水が2カ月ほど続き、入浴や洗濯を銭湯などですることを余儀なくされた。全国から駆けつけた緊急車両が自宅周辺を走り、全国の自治体職員やボランティアらの姿に「みんな一生懸命。心を打たれた」と話す。

 震災後のニュースで、能登の医療機関に勤める人が離職していく現状を知った。能登で子どもを生み、育てたい人には死活問題だと意識するようになった。「生まれ育った地域に恩返しするため、県内に残って命と向き合いたい」と志を立てた。

 入学式では、真田弘美学長が「被災地に最も近い大学」として、その意義と役割について新入生に呼びかけた。

 「防災や災害時の対応に関する専門的な知識を学ぶことについて、いっそう強化していきます。命の尊さを忘れず、学ぶことをスタートしてください」

 中橋さんは真剣な表情で聴き入っていた。(安田琢典)

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