現場へ! 能登の文化財はいま(1)
能登半島の奥へ。日本海に近い集落に着くと、崩れた屋敷を前に言葉を失った。昨年元日の地震で被災した国の重要文化財、上時国(かみときくに)家住宅だ。
石川県輪島市の東端に位置する。金沢市からだと車で約2時間半。5月上旬に当主の許可を得て敷地に入った。
大きなかやぶき屋根が地面にかぶさる。柱は折れ、壁は隠れて見えない。唐破風(からはふ)の豪華な玄関の瓦も崩れていた。
高さ18メートル、北陸最大級の古民家
本来の高さは5階建てビルに相当する18メートル。建坪189坪もある北陸最大規模の古民家だ。それが地震の後、1年4カ月以上も野ざらしになっている。
国名勝の庭園も、池は大量の泥に埋まり、大きな木が倒れていた。追い打ちをかけるような昨年9月の豪雨で、裏山から崩れた大量の土砂が流入したのだ。
上時国家は、平家の末裔(まつえい)とされる奥能登の名家。平安末期の源平合戦で敗れ、能登に流された大納言・平時忠(平清盛の義弟)を先祖とする。子の時国の名を姓とし、江戸初期に二つに分かれた。一方が加賀藩領の下時国家、もう一方が天領の大庄屋を務めた上時国家だ。
製塩や海運で財を成し、21代当主が江戸末期に建てたのが、この屋敷だ。
「江戸末期の民家の到達点」と評価
金沢に住む25代目の現当主、時国健太郎さん(74)を2度訪ねた。晴れない表情だった2月と異なり、5月はすっきりとした様子だった。
理由を尋ねると、「(屋敷の…