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父から引き継いだ塩田に立つ阿部良枝さん=2024年12月1日午前、石川県珠洲市長橋町、上田真由美撮影

 昨年の能登半島地震は、石川県珠洲市で地域に根付く伝統的な塩づくりの担い手の命も奪った。離れて暮らす娘は塩を通し、知らなかった父の一面に触れた。会社を引き継ぎ、地元の若い後継者たちと、また塩をつくれる春を待つ。

 能登半島の先端近く、日本海に面した大谷地区の海岸沿いは「塩街道」と呼ばれる。500年以上前から能登で続くとされる伝統の揚げ浜式製塩をはじめ、多彩な製法を競うように塩田が並ぶ。その一つ、「大谷塩」として親しまれてきた天然塩をつくる中前製塩の中前賢一さん(当時77)は、昨年元日の地震で亡くなった。

 中前さんの三女、阿部良枝さん(47)は、山形県新庄市で夫とラーメン店を営む。地震を知って父に電話をしたがつながらない。その後、倒壊した自宅で亡くなっているのが見つかった。

 「塩づくりを続けたい」。葬儀で阿部さんにそう声をかける人がいた。父のもとで働いていた上谷(かみや)達也さん(36)だった。

 父は、新しいことを考えるの…

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