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ハーブの収穫をする今木史典さん=2024年4月8日、紀の川市、西江拓矢撮影
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 レストランやスーパーなどでも見かけることが多くなったハーブ。しかし、国内での生産はまだ少ない。需要拡大を好機ととらえ、和歌山県紀の川市の脱サラ農家が、栽培に取り組んでいる。

 「いまきファーム」のハウスに入ると、さわやかな香りが鼻をくすぐった。

 茂ったスペアミントを前に、今木史典さん(62)が、「大きい葉はカクテル用、小さい葉はケーキの飾りなんかに使う。用途に応じてサイズも変えています」と教えてくれた。ほかに、バジル、ローズマリー、そしてハーブティーにも使われ、レモンの香りがするレモンバーベナなど、年間20種類ほどを育て、出荷している。

 今木さんは元生協職員。50歳を迎えるころ、このままサラリーマンを続けるかどうか悩み、「どうせなら好きなことを」と、ハーブ栽培へ。なぜハーブ? もともと、ピザを焼いたり、ケーキを作ったりするのが好きで、趣味でバジルやスペアミントなどを育てていたからだ。「小さい面積でも、高単価のハーブならいけるのでは」との確信もあった。

 退職し、農業のイロハを学んだ後、2013年にハーブ栽培を始めた。ただ、日本での栽培の歴史は浅く、手探り状態。高温多湿の日本で育てるため、通気を良くしたり、強い日差しをネットで遮ったり、試行錯誤を繰り返した。海外の種も取り寄せた。

 知ってもらえればきっと売れると、インターネット通販を始め、積極的に売り込んだ。「僕は、あきらめが悪いタイプ。成功するまでやり続けたのがよかった」。顧客は全国に広がり、東京のレストランからも、ハーブティー用にと、フレッシュハーブの注文が来るようになったという。

 収入を上げるために不可欠と考えていたのが、加工品だ。ドライハーブやパスタなどに使うバジルソースを作った。今年販売を始めたのが、イタリアンパセリを使ったソース「サルサ・ヴェルデ」。イタリアでは、パンに付けたり、肉や魚料理に使ったりと、家庭料理でもよく使う万能ソースという。本場では、原料にアンチョビや白ワインビネガーなどを使うが、代わりに昆布茶、梅パウダー、純米酢を入れて「和風サルサ・ヴェルデ」として売り出した。

 パンに付けて試食させてもらった。うまみとイタリアンパセリの香りが口の中に広がり、まろやかで後を引く味だ。「日本のみそみたいに、イタリアでは地方によって作り方が違うんです」と今木さん。

 栽培を始めて10年余り。今後の夢は? 「仲間を増やしていき、日本のハーブなら和歌山、と言われるようになりたい」。今木さんは力を込めた。

 取材を終え、移動する車の中。バジルの香りがいつまでも漂っていた。(西江拓矢)

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 〈いまきファーム〉 紀の川市北長田。090・5138・0686。ハーブは、和歌山や大阪など県内外のスーパーで販売。「和風サルサ・ヴェルデ」(200グラム入り)は、同ファームの直売で1500円。インターネット通販の楽天市場などでも取り扱っている。

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