夏休みのことだった。2020年8月、高校2年生の佐川陸さん(21)は、松山市にある自宅リビングのソファで横になっていた。
「パン焼けたよ」
母親の声に反応し、立ち上がろうとした。しかし起き上がれなかった。後頭部が痛み、吐き気がして意識を失った。
脳出血。脳にできる異常な血管の塊「脳動静脈奇形」が破裂したことが原因だった。1週間後には目が開いたが、食べることもしゃべることもできず、搬送先の病院で「植物状態」が続いた。
3カ月後、回復の兆しが見えた。口から食事ができるようになり、言葉を発せられるようになった。
しかし、右半身はまひし、右半分の視野を失ってしまった。さらに「高次脳機能障害」も発症し、ひらがなや漢字、数字の読み書きも忘れ、今までのようには流暢(りゅうちょう)に会話することができなくなった。
陸さんが好きな、あるスポーツ選手からのビデオメッセージが、両親の計らいで届いた。陸さんは毎日そのメッセージを見て、その度に目をまん丸にして驚いた。新しい記憶が残らなくなっているようだった。
一番きれいに歩けた日
リハビリでは、足を動かすこ…