復帰戦となった5月3日の4軍戦で三振に倒れ、ベンチに戻るソフトバンクの生海=熊本市内

 スポーツ選手がけがや病気を乗り越えて再び競技に取り組む姿は、何度見ても心を打つものがある。プロ野球福岡ソフトバンクホークスの育成選手で、北九州市出身の生海(いくみ)(甲斐生海)が5月3日に約1年半ぶりに実戦復帰を果たした。

 昨年1月の自主練習中に頭部に打球が当たり、脳挫傷と診断された24歳が4軍の試合で打席に立った。結果は三振。ただ、試合後の表情は晴れ晴れとしていた。家族も観戦に来ていたといい、「久しぶりに目の前でプレーを見せられてよかった」と穏やかな笑みが印象的だった。

 「復帰戦」で思い出すのは6年前、阪神タイガースを担当していた2019年シーズンだ。原口文仁(33)は同1月に大腸がんを患っていることを公表した。手術を経て同3月の練習復帰、屋外フリー打撃の解禁、同5月の2軍戦での実戦復帰……。すべての節目に立ち会った。特に同6月4日の1軍復帰戦となった千葉ロッテマリーンズとの交流戦は今でも鮮明に覚えている。

 九回に「代打・原口」がコールされると、観客が総立ちになった。そのときだけは敵味方関係なかった。そして、いきなり適時二塁打を放った。泣き崩れる人、興奮して跳び上がる人。私は球場の雰囲気に鳥肌が立った。原口は言った。「僕の新しい野球人生がスタートしました」と。

 生海は2022年秋のドラフト3位で入団した。1年目は13試合に出場してプロ初安打もマーク。今後は支配下選手への復帰、1軍の試合出場など多くの節目が訪れるはずだ。そのたびにファンや同じような境遇を持つ人たちに勇気や希望を与えるだろう。今後も背番号154の歩みを見続けたい。

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