腎不全の終末期をめぐる医療が変わろうとしている。きっかけは、ノンフィクション作家の堀川惠子さんが、透析を受けていた夫が亡くなる前に直面した苦痛を書いた「透析を止めた日」。腎不全患者への緩和ケアのあり方について問題提起したもので、政治や関連学会も改善に向けて動き始めている。
腎臓は、血液を濾過(ろか)し、老廃物や余分な水分を尿にして排出するという、生きるために欠かせない機能を担っている。様々な原因によって慢性腎臓病になる人は、日本人の成人8人に1人とされる。
治療には、原因となる病気の治療のほかに薬物療法や食事療法がある。だが、腎機能が低下して末期腎不全の状態になると、透析か腎移植の決断を迫られる。透析は、血液を体外に取り出して人工腎臓を通して尿毒素を排出する血液透析と、自分の腹膜を通じて尿毒素を除去する腹膜透析がある。現状では末期腎不全になった患者のほとんどが血液透析を選んでいる。
緩和ケアの対象、いまは「がん」など一部の病気のみ
血液透析を始めても、病状が悪化するなどして透析をやめる時がある。また、透析を始める患者の平均年齢が71歳と高齢化が進む中で、そもそも血液透析が現実的な治療選択肢ではないケースもある。
透析をしていた人が透析をしなくなれば、余命は2週間ほど。透析を開始しない場合は、その人に残された腎機能による。透析をしなければ、排出できなくなった毒素が体内にたまり、尿毒症など様々な苦痛を伴う症状が表れる。
だが、日本ではこうした症状に対する緩和ケアが十分に行われていないと指摘されている。腎不全に関する緩和ケアの診療ガイドラインはなく、緩和ケアの中心となってきたがんに比べ、使える鎮痛剤も限られる。診療報酬上は、がん、末期の心不全、エイズといった一部の病気を除き、緩和ケアの診療に対する加算も算定されないため、受け入れが進まなかった。
「人生でこんなに痛いことはない」 患者の苦痛
堀川さんは昨年11月に出版…