町の中心部に向かって走行する自動運転バス=2024年2月15日、北海道上士幌町、田村建二撮影

 人より牛が多い酪農の町を自動運転バスが走り、ドローンが荷物を運ぶ。新技術を駆使し、厳しい人手不足に向き合おうとする町が北海道にある。日進月歩の技術は、現役世代が今の8割となる「8がけ社会」を乗り越えるための活路となるのか。人口減少社会の突破口を探るリクルートワークス研究所の古屋星斗・主任研究員が注目する上士幌町をともに歩くと、もう一つのカギが見えてきた。

【イベント開催】8がけ社会×朝日地球会議plus 「縮小社会に挑む ものづくりのまちの未来」

全国屈指のものづくりのまち新潟・燕三条に、古屋星斗さんや地元の首長や若手経営者、JR東日本支社長を招き、縮小社会でも持続できる地域の未来について考えます。(6月23日午後6時から動画視聴を申し込めます)

 運転席はなく、コの字形に座席が並んだバスが町中心部のバス停に止まった。バスはカンカンという鐘の音を合図にスルスルと動き出す。8分ほど走ると、約1キロ離れた道の駅のバス停前にピタリと止まった。

 いまや都市部ですら、公共バスは運転手不足で減便や路線の間引きが相次ぐ。地方となれば存続さえままならないのが現状だ。

北海道上士幌町内で定期運行している自動運転バス=2025年3月22日、北海道同町

 「免許を持たないお年寄りや子どもの移動手段として、地方にこそバスは重要だ」。試乗した古屋さんは続けて「自動運転は地方にこそ、大きな力になる」と語った。

 上士幌町が自動運転バスの実証実験を始めたのは2017年。運転手不足と運行コスト増を加速させる人口減少が進む中でも、農村部に住む住民の「移動の自由」を守ろうと、22年からは町中心部を巡回するルートなどで自動運転バスの定期運行を続ける。

北海道上士幌町

 定期運行は、オペレーターが同乗して発車判断などを担う「レベル2」段階だが、昨年には、完全自動運転の「レベル4」の実証実験も行った。自動運転バスの実践では、国内最先端を走る。

 ドローンを使った物流実験も21年から実施している。現在、町中心部から郊外の民家へ、ドローンで新聞を配達する取り組みも行っている。

 最新技術を活用した人手不足対策を主導する竹中貢町長は、たとえ田舎でも日常生活に不便を生じさせないことが、豊かな暮らしを実感する条件だと強調する。「デジタル新技術を活用することで、人口減少社会の中でも、農村部の暮らしを守ることができる」と力を込める。

リクルートワークス研究所の古屋星斗・主任研究員と話す竹中貢・上士幌町長=2025年3月21日、北海道上士幌町

 十勝地方北部の人口5千人の町が、他町村に先駆けて新技術の活用に力を入れたのは、08年に制度が始まった「ふるさと納税」がきっかけだ。

 税収拡大につなげるには、都会の人との接点を増やす必要がある。その武器はデジタルやICT(情報通信技術)だと判断し、当時は珍しかった自治体のSNS発信を始めた。

 ふるさと納税の大手仲介サイトの役員と縁ができ、ドローンを使った山岳救助コンテストの会場として、町有地の山林を提供したのが16年。それが、山岳遭難が発生した時にドローンによる夜間捜索を行う法人の立ち上げにつながった。

北海道上士幌町で定期運行をしている自動運転バスに試乗するリクルートワークス研究所の古屋星斗・主任研究員(右から2番目)ら=2025年3月22日、北海道同町

 その後も、人とのつながりで新しい事業が町内に持ち込まれた。国の予算が付きやすい先駆的な事業に積極的に手を挙げることで、現在の自動運転バスやドローン輸送の実践に結実した。

 新技術の社会実装は、現状の生活サービスの一部を代替できても、それだけでは到底、縮小が進む町の存続は見通せない。上士幌町が新技術の活用とともに、地方の未来を切り開くもう一つのカギと見るのが、町民が生涯にわたって活躍し続けるための仕組み作りだ。

 「4、5年前はできていた作…

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