尿をつくる腎臓には、血液から老廃物を取り除き、体の水分量を調節する働きがある。その働きが悪化した慢性腎臓病の人は、国内に約1500万人いるという。腎臓に代わって血液をきれいにする「透析」を受けている人は約34万人(2023年末時点)いるとされる。

 透析には、血液透析と腹膜透析の2種類がある。

 血液透析は、体の外へ血液を循環させて、ダイアライザーという装置で老廃物を取り除く。体にたまった余分な水分も併せて除去する。週3回程度、医療機関に通院して受けるのが一般的だ。1回の交換に4時間ほどかかる。

 腹膜透析は、おなかの空間(腹腔(ふくくう))に透析液を流し込み、自分の腹膜を通じて老廃物を濾過(ろか)して、取り除く。おなかにつけた管を使って、1日3回ほど、毎日自宅で透析液を交換する。1回の所要時間は30分ほどだ。夜寝ている間に一日分をまとめて透析する方法もある。尿をつくる機能が残っている段階で始めることが多い。

腹膜透析とは

 透析を始める時期は、腎機能の指標であるGFR(腎臓が1分間にどれだけの血液を濾過して尿をつくるかの指標)の値を目安に検討する。腹膜透析ガイドライン2019によると、GFRが30を下回ると、透析について患者に情報提供がされる。15を下回り、だるさや吐き気などさまざまな尿毒症の症状が表れ始めると、透析導入を考慮する。自覚症状がなくても、6未満は透析の対象だ。

 日本透析医学会のまとめでは、国内では9割以上が血液透析で、腹膜透析の利用者は約3%しかいない。この割合は10年以上横ばいだ。2019のガイドライン改訂委員長で、愛知医科大学特命教授の伊藤恭彦さんによると、血液透析の方が先に普及したことや、腹膜透析は患者一人ひとりに合わせたテーラーメイドの医療で、透析液の調整やカテーテル周辺の管理などにコツがいるため、手がける医師が少ないことなども影響しているという。大学などでの教育も長年不十分だったことも背景にある。

体への負担少なく、高齢者も可能

 ただ、高齢化が進むなか、自宅でできて体への負担が少ない腹膜透析を、いま、あらためて評価する動きがある。

 透析を始める人の平均年齢は、40年ほど前の1983年は52歳だった。現在は72歳に上昇し、原因となる病気も、老化によって腎機能が落ちる腎硬化症が増えてきている。伊藤さんは「透析は、腎不全でも働くことを可能にする医療から、人生の最終段階の満足度を考えながら提供する医療へと、考え方を変えていく必要がある」と話す。

 血液透析は、数日分の老廃物や余分な水分を一度に除去するため、効率はよいが、体への負担が大きい。血圧の低下や疲労感をまねくほか、脳の血流の低下をくり返すため、認知症が進むリスクも指摘されている。一方、腹膜透析は、効率はさほどよくないが、体液量や老廃物の量の変化が一定なため、体への負担が少ない。尿が出ていれば、飲む水の量や食べ物の制限もあまりない。90代の高齢者にも導入が可能だ。

おなかに埋め込んだ管と、透析液が入ったバッグ側の管を、自動でつなぐ装置の例。管の汚染や感染を防ぐ

 腹膜の濾過機能は、年月を重ねると徐々に衰えていく。ただ、20年余り前に透析液が改良されてからは、腹膜への負担が軽減され、腹膜透析を10年以上継続できる人もいるという。また、週1回ほどの血液透析と組み合わせる併用療法も、公的医療保険の対象だ。

 伊藤さんは「今後は、高齢者が在宅で腹膜透析を選びやすくなるよう、在宅医療の担い手の育成や研修、行政との連携も課題だ」と話した。

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