カウンターにラーメンを出す冨田佳浩さんと佐登子さん。知り合いの客にメニューにはないチャーハンもつくった=2024年12月25日、岐阜県高山市八軒町2丁目、荻野好弘撮影

 この年の瀬に、飛驒高山で1軒のラーメン店が開業した。年間400万人を呼び込む観光地で、ひっそりとした路地裏の古民家を改装した。「夫婦の時間も持ちたい」との思いを抱いて60歳で高山ラーメンの老舗を閉じた店主が、妻とともに客の前に戻ってきた。

 岐阜県高山市八軒町2丁目の「ナカヤマ荘」。のれんをくぐると、店内は開店祝いの花であふれていた。ラーメン好きなら誰もが知るという東京や金沢などの有名店から届いたコチョウランも並ぶ。

 12月24日、カウンターのみの7席で営業を始めた。店主の冨田佳浩さん(64)が、甘みのある飛驒ネギをささっと切って丼に落とし、色の濃いスープを注ぎ、自家製の細い縮れ麺の上にメンマ、チャーシューをのせた。

ラーメンブームに乗り成功したけれど

 メニューは、地元で「中華そば」と呼ばれる高山ラーメンの並(850円)と大(1150円)。スープは豚骨と鶏がら、野菜、けずり節などを濃い口しょうゆと煮込んで仕上げる。丼に入れたかえし(たれ)をだしで割らないのが高山ラーメンの伝統だという。

 父親が1948年に高山市で創業したラーメン店「豆天狗」を、21歳で継いだ。味もそのまま受け継いだが、「いつまでも昔の味だけでは」と麺の打ち方を学んで自家製に切り替えるなど、「変化」をもたせてきた。

 90年代のラーメンブームにも乗り、「豆天狗」は広く知られるようになった。中部空港に2005年の開港当初から出店した。

 妻の佐登子さん(56)と切り盛りしてきた高山の本店を一時閉めて開店にこぎつけた空港店は、初日に1100杯を提供。客足が途絶えず軌道に乗った。高山でも客が増え、名古屋・金山にも店を出した。

 成功の一方、佳浩さんは50歳を過ぎたころ、ふと思った。「これ、ずっとやっていくのかな」

サザンの桑田佳祐さんにあこがれて

 夫婦そろって商売一筋。朝か…

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