自身4度目の甲子園出場をめざす神村学園の今岡拓夢

夏に咲く⑥神村学園 今岡拓夢遊撃手

 テレビの歓声に思わず視線を向けたが、すぐにそらした。

 3月、神村学園(鹿児島)の寮の食堂で、選抜高校野球大会の中継が流れていた。今岡拓夢(3年)は「くそって思いながら、見てしまう。悔しいはずなのに、見てしまっていた」。高校生になってから、自分が出場していない甲子園を見るのは初めてだった。

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 身長180センチ、体重82キロの大型の遊撃手は1年生の夏に甲子園デビューした。中軸打者となった昨年は春も夏も出場し、夏は2年連続の4強入りに貢献した。

 「自分たちが4強の壁を乗り越える」と、主将として臨んだ昨秋は九州大会1回戦で敗退し、4季連続の甲子園出場を逃した。「チームをまとめきれなかった」と自分を責めた。

 「理想の選手」は同じ神村学園で2学年上の主将だった兄・歩夢(あゆむ)さんだ。中学時代は5番手投手だった兄は神戸市の実家を離れ、進学した神村学園で別人のようにすごくなった。弟は「体がたくましくなって、人間性も変わっていた。こんなに人って変われるのかと驚いた」。

 自身は積極的に前に出て発言するのが得意ではなかった。成長したい。その一心で追うように鹿児島へ。兄は絶対的なリーダーシップで仲間をまとめ、2年前、全国4強入りに導いた。

 歩夢さんに負けない主将になる――。「自分がモチベーションを落とすと、絶対にチームは強くならない」。走り込みとトレーニングで追い込んだ長い冬は、「また負けていいんか」と仲間を、何より自分を何度も鼓舞した。

 「4強の壁」を越えるためには、夏の鹿児島大会から甲子園の決勝まで少なくとも10勝しなければならない。だから練習試合の目標は「10連勝」。もし5連勝で止まれば素振り500回、8連勝なら800回を課してきた。

 「これだけやってきたんだという自信を持って戦いたい。妥協したらダメなんです」

 甲子園では春夏通算12試合で32打数10安打、打率3割1分3厘。「良い思い出もあるけど、負けたときの印象が強い」という。では、甲子園はどういう場所なのか。「わくわくして、ドキドキして、一番楽しくて……。歓声も土も雰囲気も全部いいんです。全部です」。厳しかった表情が一瞬で崩れた。

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