つま先がすり切れたピンクのサテンのポワント(トーシューズ)は、私より0.5小さいサイズ4。尊敬する英ロイヤル・バレエ団の名プリマ、マーゴ・フォンテインが1978年、オーストラリアを共に巡った公演でこの靴を履き踊った後、「Dear Ms.Yoko(親愛なるヨーコへ)」とサインを入れて、私に下さったものです。
3歳でバレエに出会い、11歳で「一生の仕事に」と決意して広島から単身上京した私にとり、大スターのマーゴは憧れの人でした。29歳で参加したこのオーストラリアツアーでは「ヨーコ、言っていい?」の前置きで始まる彼女の助言が嬉(うれ)しくて、全て素直に吸収しました。
日本人独特の感性ゆえか、海外で「能バレリーナ」と呼ばれた私は、一方で、邪念がなく潔いマーゴを「侍のようだ」と感じていました。バレエだけではありません。例えば、最も注目される「最後」に誰が出るかで、時にプリマたちが火花を散らすカーテンコールでも、彼女は気にも留めず「私が先に出るわ」と、さっと舞台に向かうのです。
凜(りん)とした精神の根源…