「石の上にも三年」は今⑥
退職代行サービスの活況が話題になり、「超早期退職」という言葉が生まれるなど、「辞めていく若者たち」が注目されています。人手不足による売り手市場が指摘される一方で、「見えにくくなっている問題がある」と労働問題を扱うNPO法人「POSSE」の坂倉昇平さん(40)は警鐘を鳴らします。どういうことか、聞きました。
どんな仕事も3年続ければ道が開け、成功にもつながる――。日本で長く流布してきた「石の上にも三年」、社会や働き方が変わる中でどう考えていけばいいのでしょうか。インタビューシリーズでお届けします。
――就職間もない若者が退職代行を利用する状況がたびたび報じられています。
興味深く見ています。
報道で注目されている退職理由には「自分の思った仕事ができない」などが多かった。そういう「超早期退職」の流れもあるのでしょう。
でも私が受けている年間5千件の相談の中で、実体として多くて深刻なのは、入社1年目に限らず、入社2、3年働いて「労働条件が悪すぎて、もう耐えられない」というものです。
表沙汰にならないだけで、いまだにパワハラや長時間労働、賃金未払いによる労働基準法違反などが、現場では横行しています。でも、事前の就職活動では見抜くことが難しい。
2010年ごろから、「ブラック企業」の問題に焦点が当たり、働き方改革も進んできました。若者の退職をかたる時、あたかも「若者の意識変化」を理由にしている報道や言説が目立ち、根本の問題についての言及が少ないのですが、売り手市場になっているにもかかわらず、新卒の若者に対しても、いまだに根本的な問題があるのです。
退職代行については、退職先との交渉は「弁護士や労組と提携している」と業者はうたっていますが、本当に退職者のためになる交渉をできているのか、について私は懸念しています。
今の退職代行ブームは、「さっと辞めたい」人がいるということ。でも私は、若者は労働組合の存在も知っておいて、と伝えたい。辞めるにしても、残業代の未払いやハラスメントがあれば、補償や取り戻せるものもあるのだから、次の仕事に移るまで休んで交渉するという方法がある。業者に頼んで即退職は、ある意味楽かもしれないが、余裕を持った、良い形での転職にはつながりづらいかもしれません。問題が顕在化しないし、退職先企業の気づきも薄く、労働環境の改善という循環も生まれません。
潜在化するひずみ
――相談内容から見えてくる「根本的な問題」とは?
私はPOSSEで06年から労働相談を担当していて、職場に労組がない個人でも雇用主と交渉できるよう「総合サポートユニオン」も立ち上げました。
若者からの相談は非正規も正規もおおむね半々の割合。性別でみると、女性の方がやや多い。相談理由はハラスメントが増え続けています。長時間労働の相談は減少傾向です。
ハラスメントの問題は、窓口を設置したり、研修もやったりしていますが、組織で見ると、人を減らして業務量が増えているところが多いので、労働環境のひずみが潜行して、ハラスメントの問題として深刻化して顕在化しています。
急拡大している介護や保育など医療や福祉の相談が多い。
この分野の労働人口は、製造業を超える勢いで、ここ10年で増え続けています。雇用市場ではエッセンシャルワークが拡大しており、ホワイトカラー前提で労働問題を考えることは時代遅れとも言えます。
ハラスメントのきっかけを見ると、不正などに対する内部告発への報復が顕著です。内部通報の重要性も高まっていますが、必ずしも通報者を守り切れる制度になっていないので、退職相談も多い。
これまでは長時間労働をさせて現場を回していたが、人は減らして「働き方改革」はしたけれど、業務量は減らしていないため、現場がギスギスしてハラスメントが起きやすくなっている。
課題が潜っている。人手不足が悪化するなかで、こういったことが横行している。
――ホワイトカラーは?
「残業代の上限は決まっている」と誤った説明を受け、労働時間が自己申告制で、長時間労働の記録を残させないように暗にしむけられているケースが多い。もちろん、ハラスメントもあります。
採用時は求人詐欺も多いですし、固定残業代でも規定の残業時間を超えたら支払わなければならないのに、きちんと説明しないし、払わない。
労働者は、タイムカードも「押す意味がない」と思い込まされ、押せていない。働き方改革を骨抜きにする意識が広がっています。
労働条件は良くなっていないが、人を集める手口と、入っても辞めさせないという手口は巧妙化している。
SNSで告発する人もいますが、なかなか表面化しない。労基署も細かいところまで見ることはできないので、課題が水面下に潜って温存され続けています。
――自身を守るために心がけるべきことは?
会社の「良心」を信じない
証拠を残すこと。まずは、こ…