遺骨を収めたスーツケースを手に新千歳空港に到着した北海道アイヌ協会の大川勝理事長=2025年5月3日午後0時49分、千歳市美々の新千歳空港、太田悠斗撮影

 5月3日、新千歳空港に到着した北海道アイヌ協会の大川勝理事長が、両手に黒いスーツケースをしっかりと抱きかかえていた。

 収められていたのは英国から持ち帰ったばかりのアイヌ民族の遺骨だった。3体の遺骨が研究目的で持ち去られ、100年以上もの間、エディンバラ大学に保管されていた。

 大川さんは現地での心境をこう振り返った。「ようやく迎えにこられた」

 思い出したのは大学時代、東京でアイヌ創作料理店「ハルコ●(小書きのロ)」を営む宇佐照代さんの、北海道への里帰りに同行したときのことだ。

 生まれ育ったという釧路市や、親戚の住む札幌市を巡った。宇佐さんは亡き祖母がアイヌ民謡を歌う音声テープを、親類と聞いたときの感動を教えてくれた。

 自身の出自や言葉、文化を隠して生きる人がいる中、もう会うことのできない先祖の存在を通してルーツを確認できる「形見」の大切さを感じた。

 関係者の許可を得ずに持ち去られた遺骨は、国内外にある。その総数は、いまだ確認されていない。

 先祖とのつながりを失ったまま、返還の日を迎えることなく、亡くなった親族の思いはどれほどだろう。

 英国から持ち帰った3体のうち、2体は引き取り手が見つかっていない。本当の「帰郷」は、いつになるのだろうか。

 遺骨は返還先が決まるまでの間、白老町の「民族共生象徴空間(ウポポイ)」に安置される。大川さんたちは、慰霊施設のそばで祈りを捧げた。「遺骨がここに無事、帰ってきた。これが、この先も何事もないように」

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