豊橋中央―日大三 試合に敗れ、ベンチ前に整列する豊橋中央の選手たち=有元愛美子撮影

 夏の甲子園大会に初出場した豊橋中央(愛知)は、雨の中でのナイターとなった初戦で日大三(西東京)に2―3で惜敗したが、甲子園常連校と互角に渡り合い、「全開」のプレーで観客を沸かせた。

 ベンチ入りメンバー全員が愛知出身。選手の多くは有名校から声がかからず、萩本将光監督(42)から「強豪を倒して甲子園に行こう」と誘われて集まった。萩本監督は、そんな選手たちの個性を引き出し、ほかにないチームを作り上げた。

 「感情を出さずプレーするよう指導するチームも多いけど、選手は負けそうになったら涙を流す。それが高校生の『素』でしょう。普段から素を全開にして野球をしていた方が、土壇場で力を発揮できる」。それが萩本監督の持論だ。プレー中におちゃらけたしぐさをしても、野球そのものに真剣ならとがめない。そうして育った選手たちはこの夏、奔放にグラウンドを駆けた。

 高橋大喜地(だいきち)投手は、「野球の神様が楽しませてくれているんだ」と持ち前のポジティブさを見せ、五回から3イニング続けてピンチを抑えた。これからも野球を続けて「敵なしの投手になる」と誓い、甲子園を去った。プロをめざすという松井蓮太朗捕手も「野球ってこんなに楽しいんだな」と振り返った。

 愛知大会を席巻した打線はこの試合でも8安打を放ち、2点を先行されても追いついた。学校から自転車で約20分と離れ、他の部活も使うグラウンドで地道にバットを振ってきた成果を、全国の舞台でも見せた。クールな3番・花井成次選手は堅実な打撃で2安打。ムードメーカーの1、2番コンビ・近藤瑠生斗(るいと)選手と成瀬太陽選手が七回に連打してベンチを盛り上げるなど、それぞれが個性を発揮した。

 一方、安打数では相手を上回りながらも、あと1点が遠かった。「好機での1本、バント。一球の粘り強さで相手が上だった。父親のように自分たちに寄り添ってくれた萩本さんを、勝たせてあげたかった」と砂田隆晴主将。果たせなかった「甲子園での1勝」は、今夏メンバー入りした7人ら下級生に託す。豊橋中央の歴史は、まだ始まったばかりだ。(学年はいずれも3年)

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