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写真・図版
デザイン・小板橋 茉子

 羽田空港のロビー内のベンチにあった現金入りの財布を持ち去ったとして、占有離脱物横領罪で起訴された男性(36)の東京地裁での公判で、無罪が言い渡された。争点は「そもそも財布に1万円札は入っていたのか、いなかったのか」。裁判官はどのように判断したのか。

帰省する途中で財布落とす

 昨年11月の地裁判決によると、「事件」があったのは2022年3月2日。財布の持ち主(当時19歳)は、九州の実家に飛行機で帰省する予定だった。

 朝、自宅近くの郵便局で自分の口座から1万1千円(1万円札と千円札)を引き出し、昼前に、リュックサックとスーツケースを持って自宅を出た。

 駅で千円札2枚を使い電子マネー「Suica」をチャージ。途中の東京駅内のそば屋で昼食を食べ、東京モノレールに乗って空港に着いた。

 午後1時46分、空港2階の出発ロビー内のベンチに財布を置き忘れたまま立ち去った。

拾った男性はカウンターに届け出たが……

 この財布を見つけたのは、空港内で働く男性だった。

 男性は、持ち主が置き忘れた直後に財布を拾い、3階にあるトイレに行ったあと、2階のインフォメーションカウンターに拾得物として届け出た。届け出たのは、拾ってから約3分20秒後だった。男性は本名や勤務先、携帯電話番号を書いたメモも提出した。

 持ち主は財布がないことに気付き、探した末にカウンターに行き着いた。財布を受け取り一度離れたが、現金が小銭1255円分しか入っていないことに気がついた。カウンターに戻り「お札がない」と申し出た。交番に被害届を出すことになった。

弁護側「1万円、元からなかった」 VS 検察「あった」

 持ち主が財布を置き忘れたあと、男性が拾いカウンターに届け出るまでの経緯は、防犯カメラの映像などから間違いなかった。だが、男性が現金を抜き取ったことを直接示す証拠はなかった。

 検察側は「財布を置き忘れた…

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