財務省の財政制度等審議会も2024年5月、建議で医薬品の「費用対効果」を評価する必要性を論じた

記者コラム 「多事奏論」 編集委員・原真人

 「1人の生命は全地球より重い」。明治期のベストセラー「西国立志編」(サミュエル・スマイルズ著、中村正直訳)の序文にあるこの言葉は、半世紀前の日本赤軍ハイジャック事件で福田赳夫首相が超法規的措置をとる理由として語ったことでよく知られる。

 命を救うためならコストは二の次。そんな意識と運用を根づかせたという意味で、この言葉ほど日本の医療に強い影響を与えた言葉はないのではないか。

 医療の進歩は画期的な新薬を生み出した。その恩恵を最も享受したのが長寿世界一の日本国民と言ってもいいだろう。公的医療保険の高額療養費制度のおかげで驚くほど高い新薬の費用も、多くを国が負担してくれる。だから大金持ちでなくとも高額の最新の治療が受けられる。

 とはいえ、いまや世界最悪の借金財政に陥っているこの国でそんな恵まれた医療をずっと続けていけるものだろうか。誰しも抱くそんな疑問は、医療界では長らく口にすることもはばかられてきた。

 そのタブーに挑む動きが出てきた。一部の医師たちが自主的にがん治療の費用対効果の実態調査に乗り出したのだ。

 集った医師は約30人。高額…

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