5月30日午後10時20分。依然として互角。死闘が発火する直前だった。
第83期将棋名人戦七番勝負第5局の指し直し局は最終盤へ。藤井聡太名人と永瀬拓矢九段は秒読みに追われながら至高の一手を探している。極限下の2人を控室のモニターで見つめながら8年前を思い出していた。
2017年5月、初めて藤井にインタビューをした。なんて端正な言葉を使う中学3年生なのだと思った。「名人はプロになったからには目指すべきものです。強くならないと見えない景色があると思います」。別れ際、今日これからの予定は、と尋ねる。藤井は瞳を輝かせながら言った。「永瀬先生に教えていただくんです」
「軍曹」の異名を持つ研究家…