みなさん、血圧をはかりましたか? 大型連休が終わって、仕事に行くのがだるい……という方もいるかもしれません。今回は、仕事のストレスと血圧がテーマです。自治医科大学の冨谷奈穂子助教と、苅尾七臣教授に語ってもらいます。
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はじめに、クイズです。仕事中に嫌なことがあって、怒りがわいたとします。このとき、血圧はどれくらい上昇するか、知っていますか?
答えは、12・5ミリHgほど上がります。
私たちの研究で、約50人に血圧計を1日中つけてもらって調べたところ、「職場にいる」だけで上の血圧は平均4.6ミリHg上がり、ここにネガティブな感情が加わると、さらに7.9ミリHg上がることが分かりました。不安や怒りといったネガティブな感情は、血圧を押し上げる原因になるのです。
別の研究では、「強いストレスを感じている」とき、血圧は平均10ミリHg上がることも分かりました。特に、瞬間的に強いストレスがかかるときは、要注意です。
午前11時に跳ね上がった血圧、原因は?
過去に、こんな患者さんがいました。50代の男性で、45歳のときに脳出血を起こして救急搬送された方です。当時、血圧は170近くあり、心臓肥大もありました。その後、血圧を下げる薬を何剤も飲んで、平均して130ミリHgくらいにコントロールができている方でした。
この方に、腕時計型のカフ式血圧計をつけてもらい、日中活動している間の血圧をモニタリングしたところ、ある日の午前11時ごろに、血圧がぽーんと200近くまで跳ね上がったタイミングがありました。
あとで状況を聞くと、仕事の会議中に怒りがわいた時、だったといいます。
実は、以前に脳出血で救急搬送されたときも、顧客へのクレーム対応で怒りがわいた直後に倒れた、という方でした。
血圧が瞬間的に跳ね上がるときは、脳出血などのリスクが非常に高くなるので危険なのです。
血圧をすっと下げる、二つの方法
仕事中に急激に感情が高ぶる、という経験は、読者のみなさんにもあるのではないでしょうか。
では、急激に怒りがわいてしまったときにどうすればよいのか。すっと血圧を下げるおすすめの方法をご紹介します。
一つは、首の頸動脈(けいどうみゃく)を伸ばすこと。もう一つは、深呼吸です。どちらも、神経の反射の働きで血圧をすっと下げる方法です。
頭をそらして首を回すと、首の頸動脈が伸びます。頸動脈を伸ばすと、血管がひき伸ばされます。すると、血管壁にあるセンサーが「血圧が急に上がった」と判断して延髄に信号を送り、延髄から瞬時に血圧を下げる指令が出る。このため、次の2拍目から7拍目まで、すーっと血圧が下がります。
また、深呼吸も大変有効です。できるだけ肺を膨らませ、ゆっくり吐くことが大切です。肺が伸展することで、同様に肺の伸展センサーが働いて、血圧を下げることができます。
首の伸展と深呼吸を組み合わすことで、1分ほどで20~30ミリHgくらい、高くなった血圧をすっと下げることができます。
仕事中にイラッとしたら、まずはそっと深呼吸を。ぜひ、覚えておいてくださいね。
ストレスが強い時こそ、塩分を控えて
血圧を押し上げる要因には、ストレスのほかにも、睡眠不足、喫煙、飲酒、塩分や、季節による気温の変化などがあります。複数の要因が重なったとき、リスクが高まります。
血圧が上がりやすい条件は、人それぞれです。海外の研究では、人によっては「怒り」の感情で、80ミリHg近く血圧が上がることも報告されています。
こまめに血圧をはかり、「自分の血圧が上がりやすい状況」を知っておくと、脳卒中などのアクシデントを予防することにつながります。最近では、上腕に巻く血圧計と同じ仕組みの、腕時計型のカフ式血圧計、というものが登場しています。まだ高価ですが、手軽に血圧をはかることができますので参考にしてみてください。
最後にもうひとつ。ストレスを感じている時は、体から塩分を排出しづらくなります。疲れているときこそ、塩分を控えた食事や、十分な睡眠を心がけてくださいね。
次回は「食事と血圧」を考えます。