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伏木保育園ではヒミ時計店さんありがとうの会を開いて振り子時計を歓迎した=2025年4月22日、同園提供
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 時計店で戦後80年の時を刻んできた振り子時計が、能登半島地震の影響で捨てられそうになっていた。街を見守ってきた「大きなのっぽの古時計」の危機に、引き取りを決めたのは近所の保育園。4月、子どもたちはぴったりのあの歌で元気に出迎えた。

 ゼンマイ式で高さ2メートル。振り子時計は、富山県高岡市伏木中央町のヒミ時計店にあった。終戦が迫る1945年2月、故・氷見正則さんが店を開いたときからあったという。

 店の奥が定位置で、1週間に1度ネジを巻かなければならなかった。氷見さんの娘で店を切り盛りする田近則子さん(76)は「お客さんに『おい、止まってるぞ』と言われて慌ててネジを巻いたこともあった。なぜかお客さんの方が気づくんよね」と笑って振り返る。

 だが、ヒミ時計店は昨年元日の地震で液状化の被害に遭い、床が沈んだり、天井が崩れたりした。修繕は不可能といわれ、同8月に店をたたむことに決めた。いまは公費解体を待つ。店の「看板」だった振り子時計も廃棄する予定だったが、田近さんの親戚の男性が「もったいない」と言い、近くの伏木保育園に寄贈を持ちかけた。

 園児たちはコロナ禍前まで毎年、時の記念日(6月10日)に合わせて店を訪れ、様々な時計を見せてもらうつながりもあり、今年1月に受け取ることが決まった。西尾知子園長は「あの時計は街の誰もが知っていた。みんなに愛された時計をありがたく引き継がせてもらう」と話す。

園児ら通るたびに「おはよう」「さよなら」

 時計の由来はわからないが、氷見さんは「岐阜県高山市の木を使っている」と話していたという。移動のために解体すると「ROYAL CLOCK MADE IN NIPPON」とのプレートが見つかった。

 時計は4月22日、同園で74人の園児全員に出迎えられた。定時にボーンボーンと鳴るのを聞いた園児らは「うわー、鳴った鳴った」と大喜びしたという。「これから一緒に仲良くしようね」と手作りの首飾りを時計にプレゼントし、「大きな古時計」を歌って歓迎した。

 時計は園の玄関に設置。直後は調子がいま一つだったというが、園児の祖父が修理してからは順調に動いている。園児らは前を通る度に「おはよう」「さよなら、またあおうね」と声をかけ、思い思いに「大きな古時計」を歌うなどにぎやかだという。西尾園長は「街のシンボルになるように大事に大事に守っていきたい」と語る。

 時計が店を出る日、田近さんは「元気でね」と声をかけて送り出した。「お客さんも行き先が見つかって喜んでくれている。店は閉じることになったが、時計はこれから子どもたちの元気な毎日を見守る。復興への時を刻んでくれるだろう」と話す。

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