表現者として、役に立ちたい――。災害が起きたとき、善意から被災地に公演や舞台作品を届けようとする団体は多い。ところが、東日本大震災では、公演の申し出が集中し、「慰問疲れ」と呼ばれる事態も起きていた。こうした教訓をいかし、舞台にとどまらない被災者のニーズに即した表現活動の支援を探る演劇人のネットワークが広がっている。
「子どもたちがいまの状況で、60分じっと座って鑑賞できるわけがないのに」
2011年3月の震災から数カ月経った頃。仙台の舞台関係者でつくる「ARCT(アルクト)」の現代表で、演出家・俳優の野々下孝さんは、沿岸部にある小学校の先生からそう伝えられた。被害の大きかった地域では、様々な団体から被災者の現状にそぐわない公演の申し出が多く届き、疲弊しているようだった。
「当時はみんなが『何かやりたい』と使命感であせっていた」。震災が発生してすぐのことを、野々下さんはそう振り返る。
仙台の舞台関係者たちの間でも、当初は「舞台人だからこそ、公演で励ませないか」という意見が出ていたという。ただ、ARCTは震災翌月、「Art Revival Connection TOHOKU」として設立。被災地を視察したり、阪神大震災を経験した関西の劇団関係者から話を聞いたりするなかで力を入れ始めたのは、被災地のニーズを取り入れた「出前部」の活動だった。
「出前部」は、コーディネーターと呼ばれる担当者が、依頼者から聞き取った困りごとに応じてワークショップのプログラムを組む。そしてそれを、派遣された俳優やダンサーたちが実施するというものだ。
5月ごろから、「子どもたちに暴力的な行動が出てきている」などの声とともに、子どもを対象とした依頼が相次ぐようになった。聞けば、大人たちは生活の立て直しが最優先のなかでケアが行き届かず、「子どもたちが置き去りになっているような感じだった」という。
そこでワークショップに取り…