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記者会見する「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂さん(右)と瀬戸麻由さん=2025年2月18日午後6時0分、広島市役所、興野優平撮影

 政府は18日、核兵器禁止条約の第3回締約国会議にオブザーバー参加しないと発表した。戦争被爆国でありながら米国の「核の傘」の下にある日本。岩屋毅外相の「核による拡大抑止が不可欠」という説明に被爆者らは怒りをあらわにし、市民団体の若者は、会議に合わせ渡米して現地から核廃絶を訴えると抱負を述べた。

 日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表理事で広島被爆者団体連絡会議の田中聡司事務局長(80)は取材に、「一縷(いちる)の望みを持っていたが、残念だ」と怒りをあらわにした。広島県被団協の箕牧智之理事長(82)も「被爆者としては非常に情けない」と話した。

 岩屋外相は会見で、核軍縮をめぐり米国など核保有国と非核保有国の間に分断が強まっていると指摘した。その上で、米国や日本が参加する核不拡散条約(NPT)のもとで核軍縮を進める政府の立場を説明。核兵器の開発や使用、使用の威嚇までを全面的に禁じる核禁条約は「核抑止と相いれない」とし、オブザーバー参加は「我が国の核抑止政策について誤ったメッセージを与える」と述べた。

 これに対し、田中さんは「核保有国に都合の良い枠組みであるNPT体制の下では、核軍縮は進まなかった」と反論した。

 岩屋外相は日本被団協のノーベル平和賞受賞に触れ、「被爆者と共に被爆の実相の理解促進に一層取り組む」と述べた。この言葉に田中さんは「被爆者の言葉に全く耳を貸そうとしないのに、何を一緒にやると言うのか」と憤り、「核の危機が迫る中、政府が今やるべきことは核禁条約に参加し、核保有国との具体的な橋渡しをすることだ」と語った。

 日本被団協の田中熙巳代表委員(92)も「きわめて残念です」「核兵器は人類と共存できません」などとするコメントを出した。

カクワカ広島、締約国会議に合わせ3月に渡米

 「落胆を隠せない。不十分な検討だったのでは」。広島県選出の国会議員らに面会し、日本政府の締約国会議へのオブザーバー参加について意見を聞いてきた「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂さん(30)はそう話した。

 政府の態度を「米国の姿勢を気にしすぎて、既定路線を外れようという意思が感じられない」と批判。同じく核の傘下にある北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツやノルウェーが過去にオブザーバー参加したことに触れ、「それらのように応答する政府であってほしかった」と話した。

 「強い憤りを感じている」と述べた瀬戸麻由さん(33)も、政府による他国のオブザーバー参加事例の「検証」が、どの国にアプローチし、どのレベルと対話した結果かすら明かされていないと指摘。「核廃絶を一歩進めるために何ができるか、という視点の検証だったのだろうか」と疑問を呈した。

 2人は、3月の締約国会議に合わせて渡米する予定だ。現地では、米国や旧ソ連が核実験を繰り返したマーシャル諸島やカザフスタンなどから訪れる世界の核被害者と交流し、核廃絶に向けて意見交換するという。

広島市長・知事 政府を批判

 広島市の松井一実市長は「被爆地の願いや『ヒロシマの心』に背くものである」「締約国会議へのオブザーバー参加を求めるとともに、一刻も早く締約国となるよう求めていきます」などとするコメントを出した。

 広島県の湯崎英彦知事は「まずもって残念。核兵器禁止条約の議論に参加し、核兵器廃絶に向けての強いコミットメントを示すことこそが、日本が世界に向けて発信すべきメッセージだ」とのコメントを出した。

 マーシャル諸島などの核実験被害に詳しい明星大の竹峰誠一郎教授(国際社会論)は「政府の説明は核禁条約への署名・批准の話とオブザーバー参加を混同している。条約に全面的に賛同できなくともオブザーバー参加はできる」と政府の姿勢を批判した。

 核禁条約は核兵器の製造、保有などを第1条で禁じる一方、第6条で核被害者の援助と環境修復について規定する。竹峰教授は「核禁条約について安全保障上の観点からだけ捉えるのは一面的だ。オブザーバー参加し、第1条には賛同できないと表明してもいい。第6条は賛成し、その議論を見届けることはできるのではないか」と述べた。

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