現場へ! 巣立ちを支える(1)
きっかけは、人材派遣会社員時代のビジネス研修で児童養護施設を訪ねたことだった。親に虐待され、大人が信用できない、そして社会へうまくこぎ出せない――。そんな子どもたちの存在を知って衝撃を受けた。
企業の社会貢献事業として、いろんな会社の支援策を集めて複数の児童養護施設に提供するNPOの構想を提案したが、採用されなかった。せっかく話を聞かせてくれたのに。「知ってしまった責任がある」。会社を辞めた。
「がんばるべきなのは子どもたちではなく大人たち」。そう掲げて、林恵子さん(51)は2004年12月、「親を頼れない子どもたちの巣立ち支援」を担う認定NPO法人「ブリッジフォースマイル」(B4S、本部・東京都港区、認定は11年)を立ち上げた。
「社会的養護」 全国で4万2千人
親の病気や死別、虐待、経済的困窮といった理由で、里親家庭や児童養護施設、自立援助ホームなどで過ごす「社会的養護」が必要な子どもは、全国で約4万2千人いる(2024年、こども家庭庁調査)。
24年の改正児童福祉法施行で、自立生活援助に関する年齢制限が撤廃されたが、18歳で社会に踏み出す子どもは多い。親を頼れない子どもたちは、この巣立ちの時にさまざまな壁に直面する。
B4Sは退所後の子どもたちの「居場所」を自治体から受託し全国5カ所で開き、給付型の奨学金にボランティアのメンター(助言者)を組み合わせて見守る支援など、巣立ち前、巣立ち後を支える複数の事業を展開する。
また林さんは、知識も、お金も、生活スキルも、頼れる人も何もない中で社会に「放り出される」子どもたちも少なくないと聞き、B4S設立の翌05年から児童養護施設や里親家庭で暮らす高校3年生を対象にした「巣立ちプロジェクト」に取り組む。
一人暮らしで役立つ社会・生活知識を1日がかりで学べるセミナーを全6回、8月から翌年1月まで毎月開く。初年度は7人だったが24年度は首都圏、佐賀、熊本、北海道から約200人と、これまでに約2500人が参加した。
「身につけてほしいのは、大人に相談するのに慣れること」と話す。
昨年度の参加者へのアンケートで参加前後の意識の変化をみると、「自立することに対して不安はありますか」との問いでは「不安ではない・あまり不安ではない」は29%から39%へと10ポイント増えた。
「一人じゃない」と思える居場所
都内の学生寮に住む大学4年…