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取材に応じる蓮池薫さん=2025年5月30日午後3時50分、新潟県柏崎市、北野隆一撮影

 拉致被害者の蓮池薫(はすいけかおる)さん(67)が5月に、新著「日本人拉致」(岩波新書)を出版しました。北朝鮮で見聞きした秘密工作機関の組織名や工作員の名前、日本人拉致被害者の状況について、初めて詳しく記しています。

 これまで公に語ってこなかった事実を、なぜ今回、明らかにしたのでしょうか。蓮池さんは5月末、新潟県柏崎市で朝日新聞のインタビューに応じました。

現れた北朝鮮工作機関の幹部 「立派な革命家になれ」

 ――1978年7月31日、帰省中の柏崎市の海岸で、後に妻となる奥土祐木子(おくどゆきこ)さん(69)と一緒にいたところを北朝鮮に拉致されました。今回の著書では、北朝鮮での24年間の体験を、相手の名前なども含めて詳細に記載していますね。

 「拉致したのは、朝鮮労働党工作機関の対外情報調査部です。北朝鮮到着後間もなく、金正日(キムジョンイル)書記(当時)の側近という姜海竜(カンヘリョン)副部長が現れました」

 「姜氏は『わが国はすばらしい国だ。いろいろ学び、立派な革命家になったらいい』と言い、拉致実行犯のチェ・スンチョル容疑者(日本の警察当局が国際手配)も『偉い人になって日本に戻り、大きな仕事をしたらどうだ。そのために北朝鮮で学んだらいい』と語ったのです」

 ――「立派な革命家に」「大きな仕事」とは、どういう意味ですか。

 「私たち拉致被害者を工作員として利用しようとしたのでしょう。まず、朝鮮語の勉強をさせられました。同時期に拉致された地村保志(ちむらやすし)さん(70)と2人1組にされ、北朝鮮への忠誠心や、日本が植民地支配したことへの罪悪感を植えつけようとする思想教育を受けました」

 「(国家主席の)金日成(キムイルソン)氏や、(後に総書記となる)金正日氏の誕生日などには、『偉大な首領様のため命を捧げて戦う』との宣誓もさせられました」

 「拉致被害者は2人1組で『招待所』という施設で共同生活を送りました。祐木子は増元るみ子さんと、横田めぐみさんは曽我ひとみさん、後に田口八重子さんと一緒に暮らしました。若い女性を多く拉致したのは、拉致した日本人女性を工作員にしようという意図もあったのではないかと思います」

入学命令の中止 金正日氏のメンツ?

 ――しかし結局、日本人拉致被害者は工作員にならなかったのですね。

 「私たちは工作員養成機関の金星(クムソン)政治軍事大学(後の金正日政治軍事大学)に入ると言われ、びくびくしていました。しかし、何カ月たっても入学の命令が出ないまま中止されました」

 「日本への帰国後に知ったの…

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