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「折々のことば」10周年記念対談

 哲学者の鷲田清一さんが古今東西の多彩な言葉を届ける朝刊1面のコラム「折々のことば」が4月1日、10周年を迎えました。2015年の連載開始以来、紹介した「ことば」は3300を超えています。鷲田さんは日々、どのような思いで言葉と向き合っているのでしょうか。著書から「ことば」が選ばれたことがある小説家の西加奈子さんを迎え、対談してもらいました。身近な会話の機微から、戦争や災害をめぐる表現まで、関西出身の2人が熱く語り合いました。

【動画】対談する鷲田清一さんと作家の西加奈子さん=友永翔大撮影

 鷲田 西さんは小説家になるために東京へ行ってわざと自分を追いこんだと、書いていらした。僕なんか逆で、東京で仕事しても居心地のいい京都にすぐ帰るタイプ。今もそうですか?

 西 いや、もー自分に甘い甘いです。当時は小説家というものが雲の上の存在で、心から衝撃をうけた作家のトニ・モリスン、遠藤周作さんらと同じものにこの私がなりたいのなら、こんな楽しい毎日は捨てないといけないというのがあって。

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鷲田清一さん(左)と西加奈子さん=2025年3月、東京都中央区、杜宇萱撮影

 鷲田 シビアな執筆風景かなと想像したけれど、今は違うんやね。

 西 あちこちで戦争や虐殺が起こっていて、貧困や差別が可視化されているなかで、自分たちはそれを書くけれど、書いている自分たちの環境は特権の上に成り立った温かい場所であるというのは、この数年、特に突きつけられてきました。忘れてはいけないと思います。

 鷲田 海外に行くなどされているのは、意識的に場所を変えることで何かを変えようという意味があるんですか?

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対談に臨む、折々のことば筆者の鷲田清一さん=2025年3月、東京都中央区、杜宇萱撮影

 わしだ・きよかず 1949年、京都市生まれ。現場で対話しながら考える「臨床哲学」に取り組む。大阪大学総長や京都市立芸術大学学長などを歴任。2013年から今年3月まで、せんだいメディアテーク館長を務めた。著書に『モードの迷宮』『「聴く」ことの力』など。24年刊の『所有論』で和辻哲郎文化賞。

 西 ただの旅行なんです。でも、何かしらどうしようもなく得てしまうというのは、読書と似ていて。20年小説家をやっていてもプロ目線で読むことがなくて、まっさらな読者として読めるというのが誇りでもあり幸せでもあるんです。「よし、この本から何かを得て自分の作品に還元」みたいなのは一切なく、ただ楽しんで読んだら、未来の自分の執筆に関わるとか、図らずも病気を治療することになったときに支えになる。

 にし・かなこ 1977年、イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロ、大阪で育つ。2004年に『あおい』でデビュー。15年に『サラバ!』で直木賞。滞在先のカナダ・バンクーバーで乳がんを患い、闘病をつづったノンフィクション『くもをさがす』(23年刊)で読売文学賞を受賞。

 鷲田 うらやましい。僕なんか仕事で論文を書いたりするとき、読んでおかなければならない読書がすごく多いので。今「折々のことば」をやらせてもらっているのは、ハードですけど、読まなければならないというより、「もしかして面白いかも」と読み始め、出てきたら「ラッキー」って。

 西さんの言葉は、すっごい大阪的。単語や語尾がどうこうというより、話の作り方、つなげかた、「つるっつるっ」など同じことを2回続ける言葉から、あーやっぱり大阪の作家さんやなと思う。

 西 うれしいです。

 鷲田 大阪の人の会話って、たとえば友達の家に行って妹さんに「兄ちゃん、いてるか~」って聞いたら「いてる」って言われ、歓迎されていないと思ったと。「いてるいてる」なら歓迎されてる。わかる?

 西 たしかに、「ごめんな」って言って「ええよ!」って言われたら、あ、まだ怒ってると思うかも。「ええよええよ」なら許してもらったなと。なるほど。

 鷲田 あと、大阪の人ってぼけたりしながらも、話がそこで終わらんよう話を転がしてくれる。西さんの本を読んでて、標準語で書かれていても、すごく乗りやすいというか、言葉のリズムが好きで。

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