3日の憲法記念日、兵庫県尼崎市で市民有志が毎年開いてきた集会「青空表現市」が、36年の活動を終える。演劇、コント、音楽、ダンス。様々な表現方法で、自由にものが言える社会の大切さを訴えてきた。始まりは、ある新聞記者の死だ。
阪神尼崎駅前の広場で4月、青空表現市のメンバーが段ボールに川柳を墨書していた。
「春寒し ガザに休戦 見通せぬ」
今年の集会で披露する、パレスチナ問題をテーマにした「川柳ライブ」の準備だ。
通りすがりのお年寄りの女性が声をかけてきた。「ガザって何なん?」
「外国の地名やねん。子どもがたくさん殺されてんねん」
「そら気の毒やなあ」
やりとりを背中で聞いていた男性が、柔らかな笑顔を見せた。金成日(キムソンイル)さん(72)。表現市の中心メンバーで、川柳の作者だ。
「春になると、誰からともなく、今年の表現市は何やろうか、とくる。そうやってゆるやかに続いた36年だった」
表現市を始める1年前、1987年5月3日の夜。同県西宮市の朝日新聞阪神支局に男が侵入し、散弾銃を発砲。記者2人が撃たれ、小尻知博記者(当時29)が死亡した。
表現市の中心メンバーの多くは小尻記者から取材を受けた尼崎の人たちだ。
在日コリアン2世の金さんは、事件前年の86年に警察に逮捕された。在日外国人に義務付けられていた指紋押捺(おうなつ)を「差別的だ」と拒否したためだ。両手に強制具をつけられ、10指の指紋を採られた。
当時は「警察ってひどいことするなあ」ぐらいにしか思っていなかった。金さんの喫茶店の常連だった小尻記者に打ち明けると、「それは人権侵害だ」。目が覚める思いだった。
小尻記者はこの問題を世に問…