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さまざまな抗菌薬。感染症治療の強い味方だが、一般的な風邪には効果がないとされる

 患者の健康にとってほとんど、またはまったくメリットのない「低価値(ローバリュー)な医療」は、日本でどれくらい提供されているのか。筑波大などのチームが解明に取り組み、結果を米医師会雑誌の関連誌で報告した(https://jamanetwork.com/journals/jama-health-forum/fullarticle/2834906)。

 低価値医療にはさまざまなケースがあるが、「風邪に対する抗菌薬の処方」が典型的だ。ウイルス感染が原因となる一般的な風邪には、細菌をやっつける抗菌薬を使っても効果がないうえ、本来効くはずだった薬が効かない「薬剤耐性菌」を招いてしまいやすい。

 こうした医療に費やされる額は、国内で年間約1千億円にものぼると推計されている。

患者250万人のデータ分析

 チームはまず、米国内科専門医認定機構(ABIM)がつくった低価値医療のリストや、チームが過去につくったリストをもとに、患者にとって身近な診療所で提供されがちな低価値医療10項目を新たに選び出した。

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宮脇さんらが選びだした、10の低価値医療

 そのうえで、国内約3千カ所の診療所でなされた外来患者への診断や処方に関する情報のデータベース「JAMDAS」を用い、2022年10月からの1年間に受診した成人患者に対し、10項目の低価値医療がどれほど施されていたかを分析。患者の年齢や性別、病気内容の違いなどが結果に影響しないよう統計学的に調整した。

 その結果、対象となった患者約254万人の10.9%にあたる約27万7千人に対し、約43万6千件の低価値医療が提供されていたことがわかった。

腰痛への注射も

 このうちの40%を占め最も多かったのは、風邪に対する「去痰(きょたん)薬」の処方だった。痰を体外に出しやすくする作用があり、慢性的に痰が出る病気には効果が認められているが、シンプルな風邪に対しては意味がないとされている。

 その次は、風邪に対する抗菌薬の処方で、全体の29%を占めた。

 このほか、痺(しび)れを伴わない腰痛に対する硬膜外注射などの麻酔薬注射、風邪に対するコデインというせき止め薬の処方、痺れを伴わない腰痛に対するプレガバリンという神経障害性疼痛(とうつう)などに向けた薬の処方が続いた。

 これら5項目で、提供された低価値医療全体の96%となった。

医師の特徴も分析

 低価値医療を提供しがちな医…

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