東京高裁に入る大川原化工機の大川原正明社長(左から2番目)ら=2024年10月9日午前、東京・霞が関、米田優人撮影

 軍事転用できる機器を無許可で輸出したとして逮捕、起訴され、その後起訴が取り消された「大川原化工機」(横浜市)への捜査を巡る国賠請求訴訟の控訴審が9日、東京高裁であった。捜査に関わり、警視庁公安部にいた現職警察官3人が出廷した。このうちの1人が当時立件する理由があったかの質問に、「組織としてはなかった。日本の安全を考える上でもなかった」と証言した。

 同社への捜査を巡っては昨年12月、東京地裁が「必要な捜査を尽くさなかった」として同庁の逮捕や東京地検の起訴を違法と認め、都と国に計約1億6千万円の賠償を命じた。判決を不服として今年1月、原告と被告の双方が控訴した。

 この機器は噴霧乾燥機で、輸出を規制する要件は経済産業省の省令で定められている。同社側は控訴審で、警視庁公安部と経産省の打ち合わせの内容が記された内部メモを証拠提出し、公安部が「規制要件の解釈をねじ曲げた」と訴えている。

 メモによると、2017年10月の打ち合わせで、経産省は「省令の改正をしない限り、機器を規制することはできないのではないかとも考えている」と否定的な見解を示していた。だが、翌年2月には「ガサで得た情報で、他の件で立件してもらえれば、ありがたい」とし、強制捜査を認める見解に変わっていた。

 9日の尋問には、これら打ち合わせに参加するなどした捜査員が出廷し、当時の状況を振り返った。

「捜査の決定権を持っている人の欲」 社長らの逮捕

 経産省の見解の変遷について、この捜査員は「上層部から経産省にお願いしたと認識している。公安部長だと思う」と証言。その根拠について、上司にあたる当時の係長が、「空中戦」と表現し、「どうにもならないので上司にお願いするしかない」などと発言したためだと述べた。経産省の見解が変わった後、係長は「上には感謝しかない」とも話したという。

 「ガサで得た情報で、他の件で立件してもらえれば、ありがたい」との経産省の見解について、同社が「これは密約ではないか」とただすと、捜査員は「その通りです」とし、「法令を無視した。はずかしいです」と話した。

 さらに尋問で、同社側代理人から「そこまでして立件しなければならない理由はあったのか」と問われると、「組織としてはなかった。日本の安全を考える上でもなかった」と証言。同社社長らを逮捕したことについては「捜査の決定権を持っている人の欲だった」と述べた。

 また、尋問では、勾留中に見つかった胃がんで亡くなった同社元顧問の相嶋静夫さん(当時72)を取り調べた捜査員も出廷した。相嶋さんの長男が「これは起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件だ。謝罪の気持ちはあるか」と問うと、捜査員は「亡くなったことにはお悔やみを申し上げるが捜査自体は適正だったと思う」と述べた。

 控訴審は次回12月25日に結審する予定。(比嘉展玖)

「正直な証言、ありがたい」「もう少し事実を」 大川原化工機側

 閉廷後、大川原化工機の大川…

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