大川原化工機事件の検証結果を受け、記者会見に臨む迫田裕治警視総監=2025年8月7日午前10時36分、東京都千代田区、友永翔大撮影

 大川原化工機の冤罪事件で、警察庁と警視庁は7日、捜査当時の警視庁公安部の幹部や捜査員だった9人を処分、退職している10人を「処分相当」とした。このうち懲戒処分にあたるのは、捜査を現場で取り仕切った渡辺誠管理官(警視)と宮園勇人係長(警部)に対する減給100分の10(1カ月)相当で、警視庁は退職済みのこの2人に退職時の給料から減給相当額を自主返納するよう求め、2人は応じるという。残る人たちは「監督上の措置」などとして訓戒や注意などの処分を受けた。

  • 検証してみえた捜査の問題点

 退職後の警察職員に対しては処分できないが、必要な場合、「処分相当」として本人に伝える。退職者の処分相当の公表や給料返納は極めて異例。警察庁幹部は「事案を重大視した姿勢の表れ」と説明している。19人のうち8人(退職者2人を含む)は警察庁採用のキャリア警察官。

 処分対象者は、2017年の大川原化工機に対する捜査開始から、18年の家宅捜索、20年の同社の3人の逮捕、21年の起訴取り消し後までの間の部長やナンバー2の参事官、筆頭課長の公安総務課長、捜査を担当した外事1課の課長ら。警視庁の検証の結果、こうした幹部による捜査指揮ができておらず、冤罪を招いた責任を問われた。逮捕当時の部長は警察庁長官訓戒相当、キャリア参事官は警察庁官房長注意、参事官兼公安総務課長は口頭厳重注意、外事1課長は警視総監訓戒相当などとされた。

 当時の部長や参事官らは処分に関し「捜査状況の把握や捜査指揮が不十分だったことを反省している。関係のみなさまにご心労、ご負担をおかけしたことを深くおわび申し上げる」などと話しているという。

 また、取り調べにかかわった警部補ら3人も処分された。

 警察職員の処分では、重い順に、懲戒処分の免職、停職、減給、戒告が定められ、懲戒ではない「監督上の措置」として訓戒、注意があり、さらに口頭厳重注意、業務指導がある。

 警視庁による検証と並行し、警察庁も検証を実施。大川原化工機の捜査について警視庁から警察庁外事課に節目で報告がなされていたことが当時の課幹部らの聴取や書類から確認されたという。それをふまえ警察庁は、外事課が経済産業省との協議に主体的に関与すべきだったし、警視庁に対し適正捜査の指導助言をするのが望ましかったと指摘し、反省点があったと認めた。警察庁は外事課に対して業務指導の処分としたが、「それ以前から同じような対応をしていた」などとして、当時の課幹部ら個人については処分しなかった。

大川原化工機冤罪事件とは

 ●大川原化工機冤罪(えんざい)事件 軍事転用可能な機器を不正輸出したとして逮捕・起訴され、長期間勾留されたのは違法として「大川原化工機」(横浜市)の社長らが国と東京都に賠償を求めた訴訟で、東京高裁は2025年5月、捜査を尽くさず逮捕・起訴したのは違法などと認定し、国と都に計約1億6600万円の支払いを命じた。6月に判決が確定し、警視庁と東京地検は社長らに謝罪。一連の裁判では、捜査に携わった複数の現職警察官が事件を「捏造(ねつぞう)」などと証言した。この冤罪事件では社長らの身柄拘束が続き、同社顧問の相嶋静夫さんは勾留中に胃がんが見つかり72歳で亡くなった。

警視庁の検証結果のポイント

・大川原化工機の機器が輸出規制対象か判断する際、経済産業省が警視庁の法令解釈に疑問点を示したのに再考しなかった

・機器の実験で、捜査方針に合わない結果が出たのに追加捜査をせず、捜査の基本を欠いていた

・取り調べ、弁解録取の趣旨や重要性に対する著しい理解不足によって不適正な手続きを行った

・現場捜査を指揮した管理官と係長が事件検挙を最優先し、捜査方針に合わない証拠に目を向けなかった

・最高責任者の公安部長ら幹部への報告が形骸化し、公安部長らは実質的に捜査指揮せず、捜査指揮系統が機能不全になっていた

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