谷崎潤一郎の没後60年特別展「潤一郎、終活する」で展示されている「細雪」の反故原稿。1万点を超える所蔵品のなかでも貴重な資料=兵庫県芦屋市伊勢町

 2025年は文豪・谷崎潤一郎(1886~1965)の没後60年にあたる。谷崎は60歳目前で終戦を迎え、それ以降79歳で亡くなるまで次々と名作を生み出す。大胆な性描写がセンセーションを引き起こした。晩年は「老い」や「病」、そして「死」をテーマに挑み続けた。

 代表作「細雪」の舞台となっている兵庫県芦屋市には谷崎潤一郎記念館がある。6月8日まで、谷崎の晩年をたどる展示が開かれている。

 1948年12月、旧家の四姉妹を描いた「細雪」を完結し、刊行した。谷崎は62歳。当時の男性の平均寿命55・6歳を超えていた。博物館は、この代表作を「豊かな晩年へと向かう一里塚」と位置づける。

 雑誌での連載開始は43年だったが、軍部に弾圧され掲載禁止となった。「軟弱、かつはなはだしく個人主義的」「不謹慎というか、徹底した戦争傍観の態度というほかはない」などの少佐による非難の言葉を紹介している(黒田秀俊「知識人・言論弾圧の記録」)。

 「源氏物語」の口語訳、いわゆる「谷崎源氏」の新訳を脱稿したのは54年夏。68歳だった。

 戦時下に刊行された旧訳は…

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