考えて考えて、考え抜く。徒手空拳、頼れるのは鍛え上げた己の頭脳だけ。そんな「人間の将棋」を見たいと思った。藤井聡太名人(21)に、豊島将之九段(33)が挑戦する名人戦が開幕した。

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 「早めに未知数の局面になってねじり合う、互いに一手一手考えて指すような将棋にしたい」

 対局前日の9日、豊島は報道陣にそう意気込んだ。AIでの研究手順が100手近く続く将棋とは違う「力戦の将棋を目指したい」と語った。

 挑戦者のそんな言葉が、今期名人戦を象徴するテーマになる予感がした。

指し手を考える藤井聡太名人=2024年4月10日午前10時11分、東京都文京区

 1日目の10日午前。

 豊島は4手目に9筋の端歩を突いて工夫を見せると、早々に角を交換。手にした角を藤井陣に打ち込み、力戦に誘導した。

 ただ、この角打ち(△2七角)は最近の公式戦で前例がある。「後手番なら指してみたい」と研究していた手だった。

 角打ちに対する藤井の▲4八金で未知の局面へ突入。序盤早々、長考の応酬となった。

 そこから、見たこともない将棋が展開されていく。

 双方が馬をつくり合ったかと思えば、それが交換に。互いの飛車が縦横に移動し、相居飛車の将棋ながら、いつの間にか互いの飛車が8筋で向き合う。一気に激しくなる変化をはらみつつも戦いは起きず、形勢の均衡が保たれたまま推移していった。

    ◇

 局面が動いたのは2日目。

 「すごい手だ」「1秒も考えなかった」

藤井名人の意表を突き、主導権を引き寄せた△9五角。つかみかけた「勝ち」が手からすり抜けた△4四香。そのとき豊島挑戦者は何を考えていたのか。名人戦の舞台で初めて相まみえた2人が、目指す将棋を語った。

 昼食休憩明けの午後1時10…

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