参院選で「問われるもの」について、有識者らに聞きます。今回はメディア論などが専門の成蹊大学・伊藤昌亮教授(社会学)です。
今回の参院選では複数の政党が、社会保険料の引き下げや、消費税の減税または廃止などを公約に掲げています。私は、ある種の「財政ポピュリズム」だと思っています。赤字国債をどんどん刷ればいい、減税するが社会保障は充実させる、といった、国の収支を無視した主張が打ち出されています。
本来、税金を誰から取って誰に渡すかという再分配についての本質的な議論が必要ですが、目先のことでごまかす方法を競い合っているようにさえ見えます。
例えば、「現役世代が苦しいのは高齢者のせいだ」という論調がありますが、高齢者間の貧富の格差は、現役世代以上に大きい。生活保護で暮らす人がいる一方で、十分な退職金をもらい、親からの相続もあり、厚生年金をもらう裕福な高齢者もたくさんいます。現役世代と高齢者という単純な対立ではなく、高齢者間の格差にも目を向けなくてはいけません。
不満を拡散するショート動画 つくられる「敵」
いま向き合い、語らなければならないのは、産業構造など日本社会のしくみそのものです。
バブル崩壊以降、30年以上にわたり産業の成長が停滞し、非正規雇用やフリーランスが増え、賃金が上がらない人が多くいます。デジタル化が進まず、それによる雇用も他国に比べて生み出されていません。
一方で、円安などによって物…