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米ペンシルベニア州にあるUSスチールのクレアトン工場=2024年12月、真海喬生撮影

 米バイデン大統領に、悲願のUSスチール買収を阻まれた日本製鉄。禁止命令を不服として米政府を提訴する方針だが、展望は厳しい。買収を後押ししてきた日本政府にも不信感が渦巻いている。

 日鉄側は徹底抗戦の構えだ。USスチールとの共同声明で「米国で事業を遂行することを決してあきらめない」と訴えた。

 USスチールのブリット最高経営責任者(CEO)は禁止命令について「恥ずべきもので、腐敗している」「重要な同盟国の日本を侮辱している」などと厳しく批判した。今回の買収は中国に対抗するうえでも重要だとの認識から「北京では中国共産党の指導者たちが街頭で小躍りしている」とまで皮肉った。

 日鉄側は禁止命令の中身そのものには異を唱えられない。そこで強調するのが命令の「手続き違反」や「法令違反」だ。日鉄は「バイデン氏の政治的な思惑のためになされた」などと命令が出たプロセスを今後も追及していくとみられる。

 過去には買収を認められなかった中国系企業が米政府側を提訴し、企業側支持の判断を引き出した例もある。ただ、今回は過去の案件を研究したうえでの命令とみられ「勝てる可能性は高くない」(米当局の対応に詳しい井上朗弁護士)との見方がある。

 今後、USスチールの「部分的な買収」が浮上する可能性もある。製鉄には、鉄鉱石を石炭で還元する「高炉」のほか、鉄スクラップを電気でとかす「電炉」がある。USスチールの高炉の従業員は、買収に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)に加わるのに対し、電炉の工場は組合に組織されていない。電炉だけならば、買収のハードルが下がりうる。

 ただ、安保をめぐる審査はやはり避けられそうになく、その審査は「買収阻止」を繰り返し公言するトランプ次期大統領のもとで進められることになる。

 買収を後押ししてきた日本政…

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