連載「さいはての作戦会議」

 能登半島は、その形から竜の頭に例えられる。

 半島の先端にある石川県珠洲市狼煙(のろし)町は、住民自ら「さいはての地」と呼ぶこともある、海と山に囲まれた小さなまちだ。

 海に突き出た断崖には白亜の禄剛埼(ろっこうさき)灯台が立ち、ツーリングや釣りなどで観光客も訪れる。

 そのふもと、海に近い狼煙町第1区、「狼煙」と呼ばれる集落に、ちょうど50世帯100人が暮らしていた。

 今年の元日、狼煙の人たちは、その後に起こる大混乱を想像もしないまま、集会所の和室に集まった。

 毎年恒例の「新年互礼会」。

 泉谷満寿裕市長も来賓として顔を出し、自分で運転してきたからと、酒には口をつけずに帰っていった。

今年は「昇り竜」 祈ったが…

 昼前、中締めのあいさつを突然頼まれた寺井一也さん(67)は、とっさに川柳を詠んだ。

 《辰(たつ)年の 狼煙はきっと 昇り竜》

 珠洲市ではここ数年、群発地震が続いていた。昨年5月には震度6強の揺れに襲われ、狼煙の家々も被害を受けた。この集会所も、天井や内壁の修理がようやく終わったばかりだった。寺井さんは新年の干支(えと)と能登半島を象徴する昇り竜をかけて、今年こそいい年に、と願った。

 このおよそ4時間後。

 集会所では宴会が続いていた。

集会所の和室では「新年互礼会」後の宴会が続いていた。この15分後、最初の揺れが来た=2024年1月1日午後3時51分、石川県珠洲市狼煙町、馬場千遥さん提供

 午後4時6分、最初の揺れが来た。

 ミシミシミシと音が響き、和室の壁にヒビが入っていく。

 集まっていた人たちは焦らなかった。昨年5月の地震よりは小さい、と思った。「直したばっかりやのに、ヒビ入ってもうたー」と苦笑しあう余裕もあった。

 それぞれがいったん家に帰り、家族の安全を確認してこようと、解散することにした。

 その4分後の午後4時10分。

 今度はとてつもない揺れが来た。

 集会所から屋外に出たばかりだった馬場千遥さん(33)は、思わずしゃがみ込んだままごろごろと地面を左右に転がった。

 目の前の集会所が、豆腐のように変形して揺れていた。

 防火水槽のマンホールから水が噴き出した。

高台から見えた、押し寄せる波頭

 津波が来る――。

 海の間際に家々が並ぶ狼煙の人たちは、一斉に、それぞれ近くの高台に向かった。

 川柳で新年の幸運を願ったばかりの寺井さんは、弟と一緒に、88歳の母親を連れて、海抜40メートルほどの高台に立つ禄剛埼灯台に向かった。

 急な坂道をお年寄りが上り切るのはきつい。逃げてきた人たちの多くが、高台の中腹に集まっていた。

 眼下に、黒い能登瓦の家々が見える。その向こうに海が広がっている。

狼煙の住民たちが避難した禄剛埼灯台の高台中腹から望む狼煙漁港。住民たちの一部が元日に車中泊した「道の駅 狼煙」の駐車場も見える=2024年11月11日午後3時53分、石川県珠洲市狼煙町、上田真由美撮影

 海の水がすーっと沖へ引いた後、真っ白な波頭が押し寄せてくるのを寺井さんは見た。

 「津波や」

 「東北と一緒なことになってもた」

 そんな声が飛び交った。

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 冬の日暮れは早い。高台に避難してまもなく、あたりは暗くなってきた。

 その日はとても寒かった。

 午後5時ごろだろうか。「下…

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