上智大学四谷キャンパス(同大提供)=東京都千代田区

 身体的な健康ではなく、精神的に健康な状態で生きられる「心の健康余命」を2010年から22年にかけて25歳、45歳、65歳の日本人男女について調べたところ、男女いずれの年齢でも改善傾向が見られ、12年間で最大2年ほど長くなっていたと、上智大の皆川友香准教授(社会学)が分析し、専門誌に発表した。ただ、高齢男性では延長年数が1年未満で、改善度が限定的だった。

 皆川さんは「身体的な病気があったとしても、社会とのつながりを持ち、精神的にも充実していれば、それも健康だといえるのではないか。もっと包括的に『健康』を考えていく必要がある」と指摘する。

 政府は日常生活が制限されることなく生活できる身体の「健康寿命」の延伸を政策目標に掲げている。日本は世界的な長寿国だが、近年うつ病患者らが増加傾向にある。そこで皆川さんは身体ではなく「心の健康」に着目し、抑うつ状態でなく精神的に健康に生きられる「心の健康余命」を推計した。

 厚生労働省の10年から22年までの5回の国民生活基礎調査から、心の健康度を測るK6と呼ばれる指標(0~24点)を使い、0~4点を「抑うつがない」、5~9点を「抑うつがある」、10~24点を「深刻な抑うつがある」として、20歳から5年刻みでその割合を調べ、身体の健康寿命と同じ計算法(サリバン法)にあてはめて、「心の健康余命」を推計した。

 その結果、22年の時点では、例えば、25歳の男性の残りの寿命は57.0年だが、うち「心の健康余命」は42.7年となった。差の14.3年は抑うつ(8.9年)か深刻な抑うつ(5.4年)の状態となる。10年時点と比べて残りの寿命が1.7年長くなったのに対し、「心の健康余命」は2.0年長くなっていた。

 一方、65歳の男性では22年の時点で残りの寿命は19.9年で、うち「心の健康余命」は15.5年。10年時点よりいずれも長くなったが、「心の健康余命」の伸びは、残りの寿命の伸びより小さく、抑うつ状態の改善度が限定的だった。

 女性では25歳、45歳、65歳いずれも22年の時点で、10年時点と比べた「心の健康余命」の伸びは、寿命の伸びを上回っていた。

 皆川さんは「高齢男性はメンタルヘルスケアへの理解がまだ少ない。そこをすくい上げるため、職場でのカウンセリングなど、心の健康状態をモニタリングしていく施策が必要ではないか」と提案する。

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