車内に子どもが放置されるのを防ごうと、北九州市の高校生が地元企業と連携した取り組みを始めた。市内や近隣自治体では近年、車の中に子どもが置き去りにされ、熱中症で死亡する事案が相次いだ。全国でも同様のケースが後を絶たず、心を痛めた高校生が立ち上がった。
「本日はご来店いただき、誠にありがとうございます」
北九州市内のスーパー「サンリブ」の店内にアナウンスが流れる。少し幼さの残る声の主は、県立小倉商業高校3年、小林悠理さん。子どもの体温調整機能は未発達であると続けたあと、アナウンスの最後は、語気を強めこう締めくくった。
「お子様だけを車内に残すことは絶対しないようお願いいたします」
小倉商業では、北九州市からの提案を受け、小林さんら生徒会役員4人を中心に車内放置の危険性を訴える店内放送の音源を作成した。サンリブの福岡県内外の122店舗で10月末まで随時放送される予定だ。
北九州市八幡西区では昨年8月、商業施設駐車場に止めた車内に、両親らと買い物にきた0歳児が放置された。2021年7月には、中間市の保育園の送迎バスの中に5歳児が取り残され、いずれも熱中症で死亡した。
「これ以上同じような事故を起こしてほしくない」と同校3年の島暖乃(はるの)さんは話す。そんな思いを込め、アナウンスの原稿を書いたという。文面をつくるにあたっては、車内放置の危険性など情報収集にあたった。
島さんらの原稿を読み上げたのが小林さん。通常の学校生活では、文化祭の司会など明るい声色が求められるアナウンスばかりだったといい、「危険性を伝えるにはどうしたらいいか色々なニュースを見て工夫した」。
録音された音源は、市のホームページからも無料でダウンロードでき、すでにサンリブのほか6社が活用する。生徒会副会長で3年の材木野亜さんは、「はじめは小さな規模でも、どんどん広がって賛同する企業が増えたらいい」と期待を込める。
取り組みを通じ、生徒たち自身にも変化があった。2年の原田悠衣さんは、駐車場に止められた車に「子どもが乗っていないかな」「エアコン入っているかな」と日頃から気を配るようになったという。
「子どもの命は保護者や周りの大人しか守ってあげることはできない。私たちの放送で、少しでも車内放置が減り、子どもの笑顔が増えてくれたら」と話した。(城真弓)