夢洲から
大阪・関西万博の会場の「空の広場」近くに地球儀が展示されている。
「夜の地球」をテーマにした石川県輪島市の伝統工芸・輪島塗の作品で、直径1メートル、重さは約200キロ。人間国宝の小森邦衛さんを中心とする30人以上の職人が5年をかけてつくり上げ、市内の美術館に置かれていた。
海は漆黒。沈金の技術で装飾された陸地は、照明が当たると、浮き上がるように光り輝く。
見るたび、輪島を思う。記者になって2年目に金沢に赴任した。車を2時間走らせた先の輪島。海の青と山の緑に囲まれた美しく、活気に満ちた漁師町のことがすぐに好きになった。
一方で、日本海からの冷たい風に自然の厳しさも感じた。輪島塗のおわんや箸は、定期的に職人が手入れをする。知り合った漆芸家の一人が「使い捨てではなく、良いものを長く使おうという能登の生活の知恵なんです」と教えてくれた。
昨年に能登半島地震が起きた時も、輪島に入った。連絡をとる知人たちから、復興への道のりはまだ長いと聞かされる。
被災を免れた「夜の地球」は、復興の象徴の一つとして能登の人たちに力を与えている。万博会場での展示には、世界各地で災害や紛争に見舞われている人たちを勇気づける意味があるという。
地球儀の大地は、光に照らされれば何度でも輝く。復興に向けた能登からのメッセージを世界中の人に受け取って欲しい。
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世界中の人々が集まり、連日多彩なイベントが開かれる大阪・関西万博。会場の夢洲(ゆめしま)で取材に駆け回る記者たちが、日々のできごとや感じた悲喜こもごもを伝えます。