紫綬褒章を受章した漆芸作家の田中義光さん=2025年4月、石川県輪島市、砂山風磨撮影

漆芸作家・田中義光さん(54)

 作品の着想を得るのは「目の前の自然」という。夏の蛍や冬の椿(つばき)、桜にセキレイ。生まれ育った石川県輪島市は、蒔絵(まきえ)に写しとりたい情景であふれている。

 輪島塗が身近な土地。小さな頃から手を動かすことが好きで、高校卒業後に弟子入りした。

 漆を塗った上に金粉などを蒔き、さらに漆を塗り込んで研ぎ出す蒔絵の技法を好む。製図にはじまり、一つの作品を完成させるのにおよそ2年をかける。

 葉の表現のため、漆を絵筆ではなく食品用ラップでたたきつけたこともある。技巧だけでは狙えない偶然の美も作品に生かす。「美しく、人の心を揺さぶる作品をつくりたい」

 重んじるのは、感性が表れる図案(デザイン)だ。散歩道で目にした情景をノートに描いている。

 日本伝統工芸展優秀賞を2010年、22年に受賞。今回の紫綬褒章受章に「身に余ること。まだ極めていませんから」と話す。

 輪島の情景を描くことが、自分に合うと気づいたのは6年ほど前という。その地が昨年の地震と豪雨で傷ついた。「漆をやるには最高のまち」といい、復興を願う。

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